琉球・沖縄における国防意識の変遷 その3

King_Sho_Tai

前回は嘉靖年間(1522~1566)時代の琉球国における国防意識について記述しました。今回は琉球藩時代について考察します。慶長14年(1609)の薩摩入り以降、琉球王国は薩摩の実効支配下に置かれます。そうなると琉球国の国防は日本(薩摩藩が担当)に依存せざるを得なくなりますが、結果として王国は幕末期まで外国からの侵略を受けることがありませんでした。保国(国防)の観点からすれば日支両属(日本と清国と両方に属する)体制は極めて有効であったと言えます。

それゆえに、明治8年(1875)に明治政府から支那断ち(清国との関係断絶)の令達を受けた当時の権力者たちが戸惑い、そしてその提言に猛烈に反発をしたのです。下記文章(琉球見聞録から抜粋)を参照して感じることは、孔孟の教えを理由に清国との関係断絶はできない件を説明していますが、「これまでの体制で上手くいっているのに、何故変更しないといけないのか?」との本音です。『琉球見聞録』を参照すると、「是迄通(これまでどおり)」という単語が実に目立ちます。実際に国王尚泰および三司官をはじめ当時の琉球藩の権力者たちは明治維新の意義を全く理解できていませんが、伝統主義的発想からすると止むを得ないと言わざるを得ません。

松田 当藩の儀往古より支那の恩義軽からず、支那を相離るれば信義府不相立の儀、一応理あるが如くなれども、当藩に於ては之を条理と思へるや?

三司官 然り。他に此上の条理なしと思ふ。

松田 此儀は独り当藩に限らず、支那は諸国より先に開けたれば、日本も孔孟の道を学び其文字を用ふ、其恩儀少なからず。而して当今日本は万事万物欧米各国の美を学び以て開明進歩に赴けり、其恩義亦支那に異ならず。今琉球従前の通り両属の侭に任置かば、政府の欠点に属するのみならず、他に放置すべからざるの理由あり。誠に其一二を言わん。若し英国支那と兵馬を交え、支那大地を占領せば随って当藩も其掌中に属せん、然るときは日本は英国と談判を開くに至らん、故に此際支那との関係を絶ち置かざれば之が弁解の辞なく当藩も迷惑に及ぶべし。又日本支那と戦端を開かば当藩は何れへも付きがたく実に到し方なき場合に立至るべし。就しては従前の通り両属維持は到底行わざれるべし。宜く万国の形勢を察し、取捨去就を詳かにせざるべからず。且支那と絶ち離れては信義を失う云々の事は格別なれども、兎に角是を以て前述の条理を掩ふべからず。是を掩ふの条理ありとすれば、他に一条なくんばあるべからず。此辺能く思量を要すべき所なり。

三司官 皇国の各国に対せらるるは隣国交際の道なり。当藩の支那に於るは父子の道、君臣の儀、其情義の係る所至大至重此上なき条理なり。隣国交際の情義とは同日の論にあらず。信義を守るは万国の同く好む所、信義を失ふは万国の共に悪む所、万国の好む所の信義を全うせしむるは政府の盛典にあらざらん乎。且各国の交際も信義を以て御処置あらせらるべし。当藩の堅く信義を守るを以て保国の要具となす。尤も英支戦争の事は未来の変故必すべからず、当藩に於ては信義さへ失はざれば前途憂慮を煩はす所なかるべしと信ず。

松田 此儀未来の事と云ふと雖も、総て国事は予め計策を立て置かざるべからず。刑法も盗賊ありて後始めて作るものにあらず。未来の計を立つるこそ肝要なれ(中略)(琉球見聞録巻二から抜粋、旧漢字は訂正すみ)

上記の松田道之と三司官とのやり取りで痛感することは、「外国に国家の安全保障を依存すること危うさ」です。具体的に言えば、為政者たちに未来を予測する力が欠落しているのです。それゆえに当時の権力者たちは時代の移り変わりに極めて鈍感で、「当藩の堅く信義を守るを以て保国の要具となす。尤も英支戦争の事は未来の変故必すべからず、当藩に於ては信義さへ失はざれば前途憂慮を煩はす所なかるべしと信ず」との伝統主義的な発想で危機管理に対処してしまうのです。この発想が結果として琉球藩を滅ぼす一因になります。

余談ですが、現代の日本人も当時の琉球藩の為政者を笑うことはできません。自国の安全保障の大部分ををアメリカに依存している状態で、それゆえに政治家や民間の危機管理能力が欠落している状況です。それゆえ未だに「護憲の理念を保持することが保国の第一義」との伝統的発想から抜け出すことができません。時代の移り変わりに鈍感な点も共通です。ちなみに三司官の発言を少し入れ替えると、護憲派の思想信条が上手く説明できますので、よろしければ下記参照ください。

護憲派 安倍政権の各国に対する外交方針は(結果的に)戦争の道であります。我々は非核反戦平和、対話による協調をモットーに、そして憲法九条の理念をこの上なき条理とします。現日本政府の外交方針と一緒にしないで下さい。非戦の誓いを守るは万国の好むところ、破るは万国の共に憎むところ、万国の好むところの誓いを全うすることが政府の義務ではありませんか。かつ各国に対しても平和外交で臨むべきてあります。我々(護憲派)は憲法九条の理念を守ることが(国防において)必要不可欠と信じます。最も米朝戦争ことは未来の事であり、わが国は憲法九条の理念を守りさえすれば前途憂慮を煩わすことなしと信じます。