7月18日の沖縄タイムスの文化蘭に面白い記事が掲載されていました。全文を掲載しますのでご参照ください。
~解読×現代 ニッポン礼賛~
「謙譲」の美徳はどこへやら。近頃、テレビや書籍で目に付く「ニッポン礼賛」の数々。日本ってそんなにスゴイのか。
陳腐
「あなたは日本がこんなにも注目されていることを知っていますか?」という問いに始まり、「ものづくりにおいて、過程から結果に至るまでの全てが完璧」といった外国人の賛美の声が並ぶー。
3月に経済産業省が作成し、自画自賛ぶりが物議を醸した冊子「世界が驚くニッポン!」だ。工芸品などの海外販売支援を目的に在京各国大使館などに配布された。
福井県鯖江市の眼鏡や新潟県三条市の刃物などを、桂離宮や紅葉などの美しい写真と共に英訳付きで紹介。職人技は「日本人独特の自然観」に由来するとし、日本人が虫の声を「声」として聞き取れるのは「独特の脳構造」に基づく、部活の練習には「『道』の精神」が宿る、といった珍妙な解説まで登場する。
「100年前から言われているような陳腐なフレーズばかりで、一人一人の日本人の表情が見えない」と語るのは米国出身で国文学研究資料館長を務めるロバート・キャンベルだ。「世界が驚く」と注目さえること自体に価値を置く論法が、トランプ大統領のツイートを思わせ警戒されるとも指摘し、「内向きで、日本の外でどう受け取られるかという想像力に欠ける」と苦言を呈する。
機能
テレビや書店に「ニッポン礼賛」があふれて久しい。「世界が驚いたニッポン!スゴイデスネ!!視察団」(テレビ朝日系)などのバラエティー番組や、11弾まで刊行中のムック本「ジャパンクラス」では、工業製品や文化財から、ツナ缶、プロレスに至るまであらゆる分野の「ニッポン」が褒めちぎられている。
戦前のプロパガンダを紹介した「『日本スゴイ』のディストピア」の著書がある編集者の早川タダノリは、これらの多くが個々の技術やサービスの「すごさ」の紹介にとどまらず「だから日本(人)はすごい」という論理が接続されていると指摘し、「『すごい日本に住む自分もすごい』という感情を喚起するイデオロギーとしての機能を果たしている」と話す。
一方で、少子高齢化や停滞する経済など「自信の喪失」と、東アジア情勢の緊張などの「危機感」が、ニッポン礼賛のとめどない表出につながっていると説くのは「『日本人論』再考」の著作がある東京大名誉教授の船曳建夫だ。とすれば、原因が解消されない限り、いくら褒められても不安は拭えないとこになる。「足元の価値を見つめ直す」のと同時に「世界に対して何ができるのかという視点でものを考えた方が良いのではないか」
脱却
原発事故に格差の拡大、首相の国会答弁など、スゴくないことも目立つニッポンを覆う自画自賛。品がないとはいえ、隣国への罵倒や歴史修正主義に至らないならば、「お国自慢」の一種と受け流せばいいのだろうか。
キャンベルは「褒められているのは、何も考えなくてもいいと言われているわけではない」とくぎを刺す。欧米と価値を共有しつつも自らを特殊とみる、明治来の二項対立的な思想が礼賛の底流にあるとして、そこからの脱却を説く。
「実態として日本は一枚岩ではない。それぞれの魅力や価値をどのように世界の人々と共有できるのかを、1つ1つ解きほぐす努力が必要なのではないか」(敬称略)。
なんか要点が掴みにくく、もやっとした気分になる記事ですが、昨今のニッポン礼賛記事に対して沖縄タイムスが困惑していることだけは分かりました。著名人のコメントを掲載して理由付けを試みていますが、纏まりに欠ける記事の印象です。結局下記に掲載の結論になりましたので、ご参照ください。
~戦前の機運と共通~
「ニッポン礼賛」ブームは戦前にも起きていた。編集者の早川タダノリによれば、1931年の満州事変を機に「日本主義」や「日本精神」を説く書物が氾濫。中でも現在の「ニッポン礼賛」言説の原型と早川が目するのが、日本が国際連盟脱退を通告した33年の刊行された総合雑誌「日の出」10月号の付録冊子「世界に輝く日本の偉さはこゝだ」だ。
「ピカ一海軍」「横綱陸軍」は別にして、「日本製品の世界征服」「世界に誇る水泳日本」「世界を驚かす日本の発明」「時計の様に正確な鉄道」といった現代でも通用しそうな読み物が並び、「外人の礼賛」コーナーまで存在する。
「日本の豊かな自然が独自の美意識を生み出したという論理構成は、今回の経済産業省の冊子と共通している」と早川。4年後、日中戦争開始を受けて、官製の「国民精神総動因運動」が始まり、国民は戦時体制の組み込まれていく。
格差の拡大、経済の停滞、周辺国との緊張といった当時の状況は現在にも通じる。2002年に著書「ぷちナショナリズム症候群」で「ニッポン礼賛」への違和感をつづっていた精神科医の香山リカは危ぶむ。「幻想に基づく自国礼賛が崩れたときに、他者への攻撃に転化してしまうのではないか」
国際社会における日本の立場は、昭和初期と現在では全く違います。にもかかわらず戦前との共通点を指摘するのは、おそらくタイムス社としては「戦前の日本と現在の日本の立場が同じで、その結果『ニッポン礼賛』が起こった」と本気で考えているのではなく、「昨今の『ニッポン礼賛』の理由が理解できず、しょうがないから戦前の機運と共通だからとの結論で纏めよう」との意向があってこのような記事になったと考えざるを得ません。
県内2紙らしさは、最後に香山リカさんのコメントを掲載していることです。「幻想に基づく自国礼賛が崩れたときに、他者への攻撃に転化してしまうのではないか」とのご意見ですが、たしかにおっしゃる通りです。ただしニッポンのことではなくお隣の北朝鮮がそのご意見に該当します。こういう突っ込み処を提供してくれるところが何ともいえません。(終わり)。