琉球新報は何事を為したる乎 – その3

●琉球新報は何事を為したる乎(承前)

◎教育に関しては前項にも述べたる通り、我輩は多く専門家に譲り、只其結果として社会に出現したる弊害に就ては随時酷と思ふ程の批評をなしたること往々これあり。その要点を一二挙ぐれば本県の教育家が外観(ミエ)を張る為めに不相当の設備をなして民力を顧みざりしこと、教育の方法が社会の要求に副はざるもの多きこと、教育家に死法に拘泥して活知識に乏しきもの多き事にして、直言の為めその反目を受けたることまゝありき。然れども諸君我輩は教育に重きを置けばこそ苦言も呈するなれ、我輩が常に教育家に向かって相当の尊敬を払ひ、鄭重の待遇をなすを見ば教育家諸君は当に我輩の微衷を諒察せらるべし。

◎本県の経済に関しては我輩は大に努めたり。尚ほ将来に於ても殆んど全力を傾注するの方針なり。今や本県諸般の経営に関し政治に於ても教育にてもそれゞ相応の設備あり人物ありてその研鑽を怠らずと雖も、独り経済に至りては殆んど旧藩の陳套(ちんとう=古臭いこと)を継襲せるに過ぎず。之が革新をなすはこれ決して容易の事にあらざるを認め、我輩は一面には当局者に向つて注意を促し、一面には実業家に向つて種々の警告をなし、或は本県の大物産たる砂糖に対しては特別の方法を設け、毎月砂糖月報を発刊する等力の及ぶ限り経済の許す限りは努めたり。諸君よこの点に就ては我輩は当局を始めとして県下何れの団体にも譲らざるなり。

◎我輩が多年熱心に唱道したる所は近来に至りて漸くその験あり。都鄙の実業家の注意を惹起するに至れり。此に至りて我輩も聊か安心するを得たり。然れども猶ほ此上に望む所は目前の小利の為めに動揺せずして永遠の大成を期し、県下経済の基礎をしてますゝ鞏固ならしむるにあり。

◎斯る幼稚なる社会に向つて彼も是も一時に要請するは無益なり。左れば我輩は最も大切なるものを捉へ、之に向つて精力を集中するの方針を取れり。実業の上より云へば反布も泡盛も漆器も海産物も矯正すべき弊研究すべき余地極めて多し。然れども目下本県の経済を支配するものは砂糖なり。然して砂糖に就ては研究を要すべき緊急の問題多く、且施設せざるべからざる設備亦少からず。故に我輩の最も力を用ゆるものは砂糖なりとす。今砂糖に関し我輩が唱道したる所の題目を左に列記せん。

◎砂糖取引方法の改革せざるべからざることは去る三十四年の一月より主張の端緒を開き、今日に至るまで尚ほ之を継続せり。その論旨の大要を記せば三十四年一月十一日の紙上に於る「砂糖取引の改良を望む」と題する社説を始めとし、或は本県に於ける仕入れが譎詐(きっさ=偽り)の手段を弄するもの多く為めに生産家の不利を来すの弊を語り、或は取引期間の設備を希望し、或は大阪に於ける取引方法が何時迄も古来の習慣に拘泥して時勢に伴はざるを責め、或は其仲買商が自家の都合のみを見て産地に忠ならず動もすれば利益を壟断するの状態を概し、結局文明的の取引をなすには「那覇に倉庫を設備すると取引所を設ける事」及び「生産家が最寄々々に組合を組織する事」を勧告したり。

◎元来実業家は大に新聞を誤解し、新聞記者は実地を知らず何でも出放題に空論を主張するものと心得たるが、近来に至りては我輩の所論が着々実地に適中するを認めて漸く我輩の所説に耳を傾むくるに至れり。

◎実業家が我輩の所説を信ぜざりし時と雖も、我輩は只自家の不徳を責めますゝ慎重の態度を以て一言一句を苟もせず曾て「はがき集」の如き無責任の投書を廃したるも之が為なり。激烈の文字を用ゐざるも之が為なり。面白くもなき数字抔を多く並べるも之が為なり。読者之を諒せよ(完)

●琉球新報は何事を爲したる乎(承前)- 原文書き写し

◎敎育に關しては前項にも述べたる通り我輩は多く専門家に譲り只其結果として社會に出現したる弊害に就ては随時酷と思ふ程の批評をなしたること往々これありこの要點の一二を擧くれば本縣の敎育家が外觀を張る爲めに不相當の設備をなして民力を顧みざりしこと敎育の方法は社會の要求に副はざるもの多きこと敎育家に死法に抅泥して活識に乏しきもの多き事等にして直言の爲めその反目を受けたることまヽありき然れとも諸君我輩は敎育に重きを置けばこう苦言を呈するなれ我輩が常に敎育家に向つて相當の尊敬を拂い鄭重の待遇をなすを見ば敎育家諸君は當に我輩の微衷を諒察せらるべし

◎本縣の經濟に關しては我輩は大に努めたり尚ほ將來に於ても殆んど全力を傾注するの方針なり今や本縣諸般の經營に關し政治に於ても敎育にてもそれゝ相應の設備あり人物ありてその研鑽を怠らずと雖も獨り經濟に至りては殆んど藩の陳套を繼襲せるに過ぎず之が革新をなすはこれ決して容易の事にあらざるを認め我輩は一面には當局者に向つて注意を促かし一面には實業家に向つて種々の警告をなし或は本縣の大物産たる砂糖に對しては特別の方法を設け毎月砂糖月報を發刊する等力の及ぶ限り經濟の許す限りは努めたり諸君よこの點に就ては我輩は當局を始めとして縣下何れの圍體にも讓らざるなり。

◎我輩が多年熱心に唱道したる所は近來に至りて漸くその驗あり都鄙の實業家の注意を惹起するに至れり此に至りて我輩も聊か安心するを得たり然れども猶ほ此上に望む所は目前の小利の爲めに動揺せずしで永遠の大成を期し縣下經濟の基礎をしてますゝ鞏固ならしむるにあり

◎斯る幼稚なる社會に向つて彼も是も一時に要請するは無益なり左れば我輩は最も大切なるものを捉へ之に向つて精力を集中するの方針を取れり實業の上より云へば反布も泡盛も漆器も海産物も矯正すべき弊研究すべき餘地極めて多し然れども目下本縣の經濟を支配するものは砂糖なり然して砂糖に就ては研究を要すべき緊急の問題多く且施設せざるべからざる設備亦少なからず故に我輩の最も力を用ゆるものは砂糖なりとす今砂糖に關し我輩か唱道したる所の題目を左に列記せん

◎砂糖取引方法の改革せざるべからざることは去る三十四年の一月より主張の端緒を開き今日に至るまで尚ほ之を繼續せりその論旨の大要を記せは三十四年一月十一日の紙上に於る「砂糖取引の改良を望む」と題する社説を始めとし或は本縣に於ける仕入れが譎詐の手段を弄するもの多く爲に生産家の不利を來すの弊を語り或は取引設關の説備〔原文ママ〕を希望し或は大阪に於ける取引方法が何時迄も古來の習慣に抅泥して時勢に伴はざるを責め或は其仲買商が自家の都合のみを見て産地に忠ならず動もすれば利益を壟断するの狀態を槪し結局文明的の取引をなすには「那覇に倉庫を設備すると取引所を設ける事」及ひ「生産家の最寄々々に組合を組織する事」を勸告したり

◎元來實業家は大に新聞を誤解し新聞記者は實地を知らず何でも出放題に空論を主張するものと心得たるが近來に至りては我輩の所論が着々實地に適中するを認めて漸く我輩の所説に耳を傾くるに至れり

◎實業家が我輩の所説を信せざりし時と雖も我輩は只自家の不德を責めますゝ愼重の態度を以て一言一句を苟もせず曾て「はがき集」の如き無責任の投書を廢したるも之が爲なり激烈の文字を用ゐざるも之が爲なり面白くもなき數字抔を多く並べるも之が爲なり讀者之を諒せよ

●明治卅六年拾貮月廿五日(金曜)- 琉球新報(二)