阿麻和利の謎 – 聖名(2)

前回の記事において古代りうきう社会における「聖名」について言及しましたが、今回は「あまわり」の名称について考察します。鳥越憲三郎先生はあまわりの語源を「天降り」であると主張していますが、この点はブログ主も完全同意です。

「沖繩語辞典」によると天降りは〔?ama?uri:ア”マヴイ※〕、あるいは〔?amori:ア”モイ〕と発音、意味は文字通り「(神が)天から下る」です。おもろさうしの「あまわり」の表記は、りうきう方言の伝統的表記法(沖繩語辞典50~52㌻参照)から発音を推定すると〔?amawai:ア”マワイ〕、鳥越先生は〔?amaui:ア”マウイ〕と表記しており、「天降り」が訛った称号であるのは間違いありません。

※りうきう方言の音韻表記は、伝統的に「り」は「い」と発音し、当ブログでも従来の慣用に準じます。

この聖名は、前の記事で紹介した「いくさもい(たっくるさー樣)」と違い、明らかに神に関係する称号です。それ故に強い権力を有したと考えられますが、その傍証として「浦襲節」と題したオモロを紹介します。

(一六ノ一五) 浦襲節

一 勝連の阿麻和利、聞え阿麻和利や、大国の響み。

又 肝高の阿麻和利、(一節二行目から折返)

オモロの大意は、「①②誇り高き勝連城の阿麻和利(人名)、名高い阿麻和利よ、我が国におけるほまれだ」になります。補足すると「大国(ぢゃぐに)」はおもろさうしでは「りうきう國」の美称であり、故にこのオモロは首里を始め各地の城に出入りしていたオモロ詩人(口正しさある者)によって唱えられたと考えられます。オモロそのものは非常に短い語句で構成されていますが、それ故に力強さを感じる内容であり、勝連城に君臨する為政者の権力の強さを伺うには十分な詩歌と言えます。

もうひとつ、勝連のオモロを紹介しますが、城主と神との関係が伺える内容が目を惹きます。

(一六ノ二〇) 東糸の節

一 あがり(東)の大主が、前から、黄金、持ちて、吾胆、揃へて、祝ひ言、みお遣らせ。

又 てだ(太陽)が穴の大主、(一節二行目から折返)

大意は「①②東方の大神(日神)の御前から、宝を持って、心を合わせて、城主にお祝いの言葉を差し上げます」になります。このオモロは勝連の女神官が唱えたと思われますが、彼女が最高神に代わって天界の宝を差し上げますと宣言していることに注目してください。つまり勝連の城主は神に祝福される存在であることを明言しているのです。

以上の考察をもとに、おもろさうしにおける「あまわり」の称号から

・勝連に君臨する為政者は天から降臨した存在であること、

・それ故に神から愛される為政者であること、

・神の権威を以て、勝連地方を治める強い権力の持ち主であったこと

が推測できます。そして古代から16世紀における我がりうきうの神観は、首里などの “意識高い系” が集まる中央だけでなく、地方レベルでもヤマト(日本)の影響を強く受けていることがハッキリと分かります。

聖名についてはここまでにして、次回は「勝連」の地名について言及します。