以前からブログ主は不定期に「おもろさうし」を写本してきましたが、その際にとても困ったことがあります。というのも写本と同じぐらい「読誦」も重視しているのですが、鳥越憲三郎著「おもろさうし全釈」に掲載されている「きこゑ大きみきや」や「おきやかもい」などの単語をどのように発音していいのかさっぱりわからないのです。(なのでしょうがないからりうきう方言の「あいういう」ではなく、日本語の「あいうえお」の発音を使っている)
そのため昭和38年(1963)に国立国語研究所が発行した「沖繩語辞典」を参照しながら、「おもろさうし」の音韻表記を可能な限り正確に発音するよう試みましたが、個人レベルだけでは極めて厳しいという現実を痛感しました。というのも現代の沖縄県民はりうきう方言における声門破裂音を正確に聞き取ることも、発音することもできないからです。
沖繩語辞典によると
4)声門破裂音〔?〕とは、喉頭にある声門を一たん閉じておいてから急激に開く時に発する音である。咳のはじめの音や、便所でいきこむ音は強い声門破裂音である。また、口を大きくあけておいたまま息を止めることができるのは、声門が閉ざされているからである(56㌻より)
とあり、やっかいなのは声門破裂音の有無で単語の意味が異なってくるケースが散見される点です。同辞典では犬〔?iN〕と縁〔iN〕、音〔?utu〕と夫〔utu〕を例に挙げていますが、注意すべき点は標準語(日本語)の場合は声門破裂音の有無は問題にされないが、りうきう方言では明確に区別されるということです。
現代の沖縄県民が声門破裂音を正確に聞き取れないし発音できない一例として、「沖縄(うちなー)」の単語を挙げますが、沖繩語辞典によると〔?ucinaa〕とあり明らかに声門破裂音が使用されています。ただし現代人は声門破裂音を無視して、〔ucinaa〕と発音していますが、それはつまり我々はヤマトナイズされた “うちなーぐち” を日常会話の中で使用しても差し支えない、そして純粋な方言はだれも使えないことを意味しています。
でもこれはしょうがないのです。というのも今更どの単語に声門破裂音を使って発音するのか、そしてどうやって聞き取り、かつ正しく発音するかを県民に周知徹底することなんて不可能だからです。それ故に昭和の終わりごろに “うちなーやまとぅぐち” なんて時代のニーズにあったローカル語が生まれたわけなんです。
参考までに沖繩語辞典の「母音」に関する説明によると、語頭に「あ」がくる単語はすべて声門破裂音が使用されています。例えば東(あがり)は〔?agari〕とありますが、それはつまり語頭に「あ」のつく単語をどのように発音するかでりうきう方言を正しく発音しているか否かが判別できます。参考までにとある動画を共有しますが、残念ながらブログ主は0:59の「あ゛がやー」と「あ゛いびーん」が正しい発音かどうかを認識できませんでした。
現在の「しまくぅとぅば」の普及継承がなかなかうまくいかないのはこのあたりの事情が大きいと思われますが、県にしても動画投稿主にしてもうちなーぐち〔?ucinaagushi〕に対して真摯に取り組んでるのは理解できます。だがしかし、我が沖縄には現代のうちなーぐちがヤマトナイズされていることに全く気が付かず、日常会話やSNSなどで得意げに方言の単語を挟んでうちなーアピールしている痛い人種が存在します。それだけならまだしも、すっかりヤマト化されたりうきう方言を使って「りうきう民族の誇り」をアピールするなんて論外もいいところであり、そういう人たちのこと
ほうげんふらー
と見做しても誤りではないなと実感しているブログ主であります。