基地の街エレジー(2) ガム賣り

基地も街だからって米人相手のバァーやキャバレーばかりがあるわけではない。コザ十字路の北方に吉原という一画がある(正確にいうと美里村吉原区)。センターや、八重島、島袋、諸見などが11時で1日の仕事に終りをつげ、大戸を下すころ、こゝ吉原の街はようやく目をさます。中部の客だけでなく、遠く那覇から宴会帰りの客が押しかけ中々の繁昌ぶり。酔客が千鳥足で窓々の娘達を冷かす中、夜は更けてくる。

「スシーエーマキスーシ」…………と、哀調を流すスシ売りのおじさん「玉子を買ってくれ」「ガムはいかが」と酔客の袖を引くおばさん連。一晩いくらになるか知らないが、楽でない暮しの足しにと午前2時、3時まで働いている。道ばたにしゃがんで、この人達のお喋りに耳をかたむけよう。

男ってみんな馬鹿ネ / 色街で月給使いはたす

◎…光夜の石川から来たというあの若い青年ね月給日だったんだって。はじめての遊びにすっかりいい気になってね、2,800いくらかの給料を使いはたしたものの翌朝は700円ばかりになって、泣いていたってよ。

◎…へえー。全部ここで使ったの〔かしら〕。

◎…そうらしいの。友人2人と飲んでいるとき、隣部屋で飲んでいた青年3名が「やあやあ兄さん」とか何とかで5名でビールを空けちゃって、あげくの果〔てに〕3名は帰ってしまい、勘定は1人で背負い込んだって訳さ…。

◎…私はね、ホラ1カ月程前の晩、うちの子の先生が来ていると貴方にも話したでしょう。その先生に昨日道で合ってね。真面目そうにあいさつされて、何だか変な気がしたよ。あの晩先生を見てしまった私が何だか悪い事したみたいで。

◎…〇〇屋のS子ちゃんがね昨夜、おもしろい若い客がいたって話してたよ。何でもね、酔っているくせに、日本復帰の、売春禁止法の何のと喋ってたって〔。〕結局その復帰青年、家へ復帰する事が出来ず、轟沈したというが、おまけに売春禁止法にも違反したという事よ…ハハハ…。

◎…へえ!、面白いね、それは〔。〕それにしても近ごろの客はずいぶん説教するのが多くなったね。特に、若い青年連中に多いね。税務署員や、警官、教育者なんていう人々が、いちばんここらの女の子には持てないね……。

◎…それは当然よ。机の上で勉強し、一応生活も出来、酒のんだり、女通いする人々は自分のやっていることは棚に上げて、何かといえば、風紀がみだれているの、思想がどうの、道徳が、どうのって理屈を並べるのね。

◎…そうそう、ここに働いている子たちが、何万といいう借金のために動けないことも、苦しい心も知らず、いつも人を見下している気持が露骨に出るのよ……。

◎…この前2人の青年がね、それはもう豪勢な遊びをするのよ〔。〕不思議に思ってね、兄さん方お仕事はどこって聞いたら軍作業だっていうの、きょうは月給日なのと聞くといいやそうではないが、きょうは休みで、ビンゴに行ったらね、俺が3,000円、こいつが4,000円も勝ったというのよ、びっくりしちゃったね。

◎…近頃でも盛んなのね、ビンゴは。1日に4~5,000円も負け〔る〕っていう人もいるっていうのに……。

◎…男ってどうしてこんなに馬鹿なのかね。足りないの〔かしら。〕

◎…大な事いってもだめね。家の妻子はひもじい思いをさせてるのもきっといるよ。

◎…そうよ。大きい事をいってね…。政治家の〇〇さんでさえ、妾もいる人が一昨夜、〇〇亭の若い子に掴まってとうとう帰れなかったって。あゝー男は皆バカ……。

さあ皆、もう一回りしようや……。スシ売りのおじさんは再び哀調を流し、ガム売りのおばさん達も思い思いに散っていった夜は更けてゆく。(昭和32年9月14日付琉球新報夕刊03面)

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