2018年沖縄県知事選挙についての考察

先月30日に投開票された2018年沖縄県知事選挙は周知のとおり玉城デニー氏が佐喜眞淳候補に圧勝しました。すでにWebやSNSでは選挙に関する記事や書き込みが目立ちますが、ブログ主も調子に乗って今回の選挙結果の歴史的意義などについて言及します。ただしブログ主は選挙の素人のため勝因あるいは敗因について語る資格がありません。あくまで第三者の立場から見た所感になります。この点を考慮したうえで読者のみなさん是非ご参照ください。

アメラジアンが県知事に就任することに歴史的な意義がある

玉城デニー氏のプロフィールに関しては下記引用をご参照ください。

玉城デニー氏プロフィル

米国人の父と伊江島出身の母の間に生まれ、母子家庭で育った。ラジオパーソナリティーなどのタレント活動を経て、42歳で政治家の道へ(下略)

玉城デニー氏(たまき・でにー)1959年10月13日生まれ。うるま市出身。上智社会福祉専門学校卒。ラジオパーソナリティーなどタレント活動を経て、2002年に沖縄市議に初当選(1期)。09年に衆院議員に初当選(4期)。前衆議院議員、自由党幹事長。

引用:沖縄タイムス、2018年(平成30年)10月1日月曜日総合2面

「米国人の父」との記載がありますが、実は在沖米軍基地に駐留していた米兵で、つまり彼はアメラジアン(在日米軍関係者と現地日本人との間に生まれた子)なのです。現在では差別用語扱いになりますが、かつて沖縄ではアメラジアンは”あいのこー(合の子)”と呼ばれて差別や偏見の対象でした。

周知のことですが沖縄社会における地域間、男女あるいはアメラジアンに対する差別や偏見は実に根強いものがあります。ブログ主の経験ですが2006年沖縄県知事選に立候補した糸数けいこ先生に対して高齢者女性たちが、「あんねーるーいなぐが(女性ごときが)」と陰口をたたいて仲井眞弘多候補に投票したのを見たことあります。昭和の時代は先島出身者やアメラジアンに対する差別的な言動も日常茶飯事でした。

玉城デニー氏が今回の沖縄知事選に勝利したことは沖縄県内において平等観念が定着しつつあること意味します。この事実は衆院議員を4期務めた実績と併せて歴史的な業績であること間違いなく、差別や偏見の解消の観点からみると沖縄社会にとって喜ばしい出来事だと言っても過言ではありません。

被差別意識の根強さを証明した選挙

今回の選挙における玉城氏の勝利は翁長県政を有権者が高く評価した結果と言えます。翁長前知事は「これ以上の基地負担は容認できない」との立場から普天間基地の辺野古移設に反対しますが、その根底には「沖縄は差別されつづけてきた」という発想があります。今回デニー氏に投票した有権者は旧来の支持層である60~70代の高齢者に限らず、40~50代の無党派からも高い支持を得ているように見受けられました。

このことは沖縄社会において被差別感、つまり「沖縄は差別されつづけてきた」という観念が根強く横たわっていることを意味します。ブログ主は平成も30年を経過しているにも関わらず、未だ沖縄社会にアメリカ世→復帰後の観念が色濃く残っていることに強い衝撃を受けました。しかも「新基地建設」というワードが県民が抱える被差別意識を呼び起こす重要な役割を果たしていて、デニー氏支持者の結束に一役買っています。一種のコンプレックスを助長する行為ははっきりいって好ましくありませんが、正直なところ手の打ちようがありません。時間が解決することを辛抱強く待つのみです。

安倍政権の打倒にはつながらない

自民党は今回の選挙戦において候補者選定の段階から介入して選挙を戦いますが、最終的には玉城デニー候補に大敗します。いわば全力を尽しての敗北ですが、この事実を以て安倍政権の打倒に繋がることはないと判断しています。そしてまた彼が安倍政権打倒を呼びかける可能性も極めて低いとみて間違いありません。

デニー氏本来の支持層は60~70代の高齢者が中心です。彼ら支持者の特徴は若いときに復帰前後の物騒な社会雰囲気を経験していることと、1966年(昭和41年)から開始した健康保険を始めとしたセーフティネットの恩恵を最も受けたことです。いわば”混乱と秩序”を両方体験している世代ですが、現在の彼らが最も嫌うことは社会的混乱を助長することで年金などの社会保障システムに悪影響がでることです。

安倍内閣という盤石な政権があってこそ翁長県政は「沖縄の基地負担減」を安心して政府に訴えることができました。そしてそのことはデニー氏の支持者にとっても周知の事実であり、沖縄が中心になって本気で政権打倒を目指すなんて考えている人はほとんどいません。安定した秩序の元で被差別意識の解消に務めることがデニー氏の本当の役割であり、その範疇を超えた言動に対しては支持者からの強烈な反発があると見て間違いありません。それ故に沖縄知事選の結果をもって秘かに安倍政権の打倒を試みる勢力は近い将来大きな失望を味わうのではないでしょうか。

是迄通(これまでどおり)が支配する沖縄

今回の選挙結果は「沖縄社会は現状維持の選択した」と見做すこともできます。特に安定した秩序の元で基地反対を唱える人たちにとっては最高の結果となりました。言い換えるとオール沖縄という現状維持派が今後4年間県政を担うことになります。

翁長前知事の遺志を引き継ぐことを前面に出して可能な限り政党色を消した上で選挙に勝利した玉城デニー氏は、ご自身のキャラクターを前面にを出し過ぎずに翁長前知事の後継者として振る舞う必要があります。つまり是迄通(これまでどおり)が支配する4年間になります。「保守の変種」が沖縄社会を席巻していると考えても誤りではありません。

結論は玉城デニー氏が知事に就任しても沖縄社会において良くも悪くも大きな変化は期待できないのです。具体的には中国共産党が沖縄に侵略することもなく、平和団体は安倍政権の庇護のもとで基地反対を行い、高齢者は手厚いセーフティーネットの元で日々を送り沖縄2紙を購読閲覧する日常が続くのです。このことを平和と見做すのか、あるいは退屈や堕落と考えるのかは読者の判断にお任せして今回の記事を終えます。