「オレたちから仲間割れしようたって、そうはさせねェ。ヘンな考え起こすと承知しねェぞ。のぼせあがって…」
「見せしめだ。みんなでのしちゃえ」
「だってアニキ…」
「構わねぇからやれ。少しぐれぇ痛い目にあわせにゃ目がさめねぇぜ」
そこで “ふくろだたき” の図が展開される。”指詰め” などと並んでやくざ映画につきもののリンチ(私刑)の典型的なケースである。
そのリンチ映画を地で行なったのが、さる2月5日の那覇市安謝での非行グループの集団暴行事件だ。
裏切り者に “オキテ” / 英雄気取りで残虐行為
グループは中学3年生と中卒の不良少年ら7~8人。周囲から鼻つまみの “黒い芽” たち。つきあいのある不良少女らと人家はずれの草原で酒をのみ、タバコをふかし、桃色遊戯でふざけあっているところを通行人の訴えでかけつけた警察に押さえられた。半分は逃げた。警察でさんざんしぼられて帰されたその日の午後、グループは安謝のはずれの高台にある古い貯水タンクの廃墟に集まり
「オレたちをサツ(警察)にパクらせたのは、きっとあいつだぜ」
「T以外、あの場所を知ってるものァないヨ。あいつがサツに密告しやがったんだ。オレたちをいやがっていたからな、その腹いせに……」
「チクショウ、ひっぱってきてたたきのめしてやれ」
— こうして、一味のうち2人ぐらいがT君(中学3年生)の学校帰りを待ち伏せ「みんなが貯水タンク跡で待っているぜ、お礼がいいたいヨ」「何のお礼?」「いいから、いいから」なかば示威的に、ウムをいわさずタンク跡に連れ込んだ。たむろしていた一味がすかさず取り囲みすごみをきかせる。
「よくも、オレたちをサツにパクらせたな。おめェが密告したんだろ。”オキテ” を破りやがって……」
T君はふるえて「オレ、なんにも知らないよ。オレじゃないョ」と弁解したが聞き入れない。「やっちまえ」とかけ声もろとも、1人がパンチをあびせた、つづいてフック、「こんどはプロレスだ」と、他の一味が代わる代わるヒザけり、ヒジ打ち、飛びケリ、ぶったおれたところでまた胴じめ、足がため…とたてつづけにあびせる。T君が気を失うまでひき倒し、だき起こし、”ふくろだたき” をつづけた。T君はこのときのケガで2~3日、床から起き上がれないというほどの残虐なあつかいであった。
— T君は実際にはこのグループとグルではなかったから正確には “集団暴行事件” となるのだが交友があったところから一味はT君を事実上の “仲間” だと決めつけていたし、このときの事件は「見せしめ」の処刑だったのである。警察でも「残虐きわまる私刑」として事件を特殊事件あつかいで送検したものだが映画などに出てくるやくざが “オキテ” を破った “ワビ入れ” としてドスで指をつめる残酷シーンのあの “やくざ気質” そのままのリンチ心理なのである。
「オレたちのオキテ」というグループの “オキテ” — 「ぜったいに仲間を売らないこと」 — つまりT君は一方的にグループにされ、それを裏切ったとカン違いされて “リンチ” されたわけである。
「オキテはやくざの鉄則」などというとチャンバラめくが、むかしからヤクザの社会の “鉄則” には「仲間を売るな」の一か条があるそうだ。それを見よう見真似でこうした “黒い芽” グループの中にまで浸透していっている。その “オキテ” うんぬんで、これらのグループの中でリンチ事件はひんぱん。実際に指をつめたという例もあれば素っ裸にされてダンスを強いられたなどという例もあるようだが、多くは “オキテ” にしばられて警察に訴え出るわけにもいかず、そのままグループの中でもみ消しにされているらしいと警察ではいう。
「やくざの “オキテ” をそのまま自分たちも受けつぎ、それで “オレたちはりっぱなヤクザだぞ” とヘンな自尊心を持つ。ひとつの英雄気取りなんですネ。困ったもんです」とある少年係り刑事がマユをひそめていた。
この刑事さんにいわれると、さいきんのヘンな正義漢ぶったヤクザ映画の影響も多分にあるらしい。ここでの正義感はいうまでもなく “オキテ” の中でのヤクザ正義ではあるが…。黒シャツ白ネクタイの “殺し屋”、皮ジャンパーの兄貴分……ニヤニヤうす笑いを浮かべながら「テメェのどてっ腹に風アナがあくぜ」などとタンカを切れば、しびれるほどにグッときてこたえられねエーというヤクザの卵たちである。(昭和38年2月22日付琉球新報7面)