黒い芽 – 暴力追放総決起運動 / (5) 盗み

「おい、カモが来たぜーサブ公!おめえやってみな」

「腕だめしだ、ドジ踏んだら裸でツイストだぞ」

「スパークしたら、路地に逃げ込むんだ。そこで俺が待っているからナ」 — 昼下がりの住宅街、くわえタバコの黒い芽たちが4~5人、ブロック塀にもたれて、ゲームの打ち合わせだ。話し合いは向こうからくるBGのハンドバックをひったくること。どうやら新入りらしい少年が、グループ加盟の実技テストをされる破目になったらしい。そこでただちに行動開始。

兄貴分のA少年に指名されてサブ公は、カモのBGの方へスタスタと歩いて行く。同時に仲間の1人が路地へかけ込む。Gパンのポケットに両手をツッ込みサブ公は前かがみで口ぶえをふきながらカモに近づいて行く。映画に出てくるチンピラやくざの仕草をむりして、まねているカッコウだが、足を引きづりかげんに歩くところは、裕次郎ばりのカンロクをみせたいから、目ざすカモは、土曜日早退けで、これからデイトに行くところなのか、浮き浮きした足どり。(さァ、カモだ)すれちがう。一瞬、サッとサブの手がポケットからハンドバックへ — ひったくる。パッとかけ出して路地へ。カモられたBGが道路の入り口まで迫ったときには、無論、そこには、姿も影もないのである –。

新入りの腕だめし? / 荒らされるあき巣、商店

黒い芽のグループらにとってこのような、ひったくりや市内商店、マーケットでの万引きなどは新入りの腕だめしか、退屈しのぎのゲームという程度の興味しかない。悪質化するにつれ、最近では、大人の犯罪以上に無軌道さと残虐性を発揮しており、関係者をふるえあがらせている。

昨年のくれから先月のはじめにかけて、市内各所で黒い芽たちのあき巣ねらいがひんぴんと起こった。少年係が調べてみると、金を盗まれたところよりも未遂のところが、被害は大きかった。というのは、現金がみつからないので、冷蔵庫からビールや、コーラー、ミズヤをかきまわして食べものをとり出して酒もりしたり、それができないと、ふすまをやぶく、タタミに包丁をつきたててめちゃめちゃに切りさく。さらに美しい画でもかけてあると、ナイフをバッサリつき立てるし、彫刻の像があればハンマーで粉々にする。また子どものおもちゃも手あたり次第ぶちこわす。はちの中の金魚には糊を放りこんで殺したり、しょうゆを流し込んで、金魚がきりきり舞いするのをみながらレコードをかけて金魚のツイストだと踊り狂ってよろこぶ。鳥かごのカナリヤは首をチョン切ったうえ目玉に糸を通してつるすなど、子どもにしては、あまりにも残忍さをきわめたやりかたで荒らしまわるからである。

そして少年たちは補導されると「ぶちこわすときのブンキ(気分のこと)なんて最高、オレの行く手にゃァふさがるものなんてなんいもありゃしねェって感じなんだ」とうそぶく –。

黒い芽グループの最近の犯罪における特異な傾向である。

黒い芽は、他人のものをとることを、あき巣であれ、万引きであれ、またスリであれ総称して、彼らだけの隠語で「トンカマス」という。中には、介抱窃盗のことを「キスグレ」と特別に呼ぶこともある。このような隠語は、盗犯関係を追及するのに刑事はぜひ知っていなければならないものだ。わからないとごまかされるから。

さる19日少年係りに補導されたS(13)は今月はじめから20日間で40件の盗みをはたらいた。カナリアの首切り、金魚ごろしも同少年グループの仕わざである。取り調べに際してはすらすらと白状して平気な顔。ほとんどグループによる犯行だった。少年らは常に合いカギ、つめ切り、ドライバーなど盗みの七ツ道具を持っておりこれで、どんなカギでもOK。襲うのはいつも昼間 –。目ざす家のまわりを4~5人でとりかこみ人がいるかどうかを確かめ表からこんにちわとやる。返事がないと一せいにとび込むのである。これがグループの住宅荒らしにつかわれる常套手段だ。

一方、デパートやマーケットでは、1人が店員に話しかけて注意をそらし残りの者がかすめとるという手口を使い、素早くそして手あたり次第に盗んで逃げてしまう。

那覇署がまとめた少年盗犯白書をみると、昨年は約1300件で、2.4倍もふえた。これは全盗犯の3分の2である。検挙、補導率は80%の好成績だ。しかし黒い芽たちの盗犯は「施設送り – 逃走 – 盗み – 補導」という悪循環をくりかえす以外に方法がなく、一層、悪質化と激増に拍車がかけられているのである。(昭和38年2月24日付琉球新報7面)