観光立県(笑)の時代が到来する件

7月8日付、琉球新報社説を掲載します。早速ですが読者のみなさん是非ご参照ください。

〈社説〉観光収入過去最高 県民視点に立った振興を

2017年度の県観光収入が6979億2400円となり、5年連続で過去最高を更新した。入域観光客数が957万9900人と過去最高だったことに起因する。一方で観光客1人当たりの県内消費額は7万2853円で2年連続で前年を下回った。

観光で沖縄を訪れる人は多くなっているが、一人一人が使うお金は減少している。観光振興上、由々しき状況だ。構造転換を図る必要がある。

1人当たりの消費額が減少している理由は、平均滞在日数の減少と外国海路客の増加だ。平均滞在日数は3.68日で、前年より微減した。滞在日数が少なくなれば、消費するお金が減るのは当然だ。

入域観光客数はハワイを超えた。しかしハワイの17年の平均滞在日数は8.95日で、沖縄の2倍以上だ。1日当たりの平均消費額は沖縄もハワイも約2万円と変わらない。滞在日数が消費額を増加させる鍵を握っていることが分かる。

外国海路客はクルーズ船で来県するため、宿泊施設を利用しない。このため1人当たりの県内消費額が低くなる。航空機で来る外国空路客が10万265円で前年より額が増えているのに対し、外国海路客は2万9861円と3分の1以下だ。しかも前年より額が3795円も減っている。

外国海路客が前年の1.5倍となる105万人まで増加していることは喜ばしい。今後は海路客が沖縄観光で何を求めているのかを的確につかみ、消費増を進める必要がある。

県では第5次県観光振興基本計画で、21年に入域観光客数を1200万人、観光収入を1.1兆円、1人当たり消費額を9.3万円、平均滞在日数を4.5日まで引き上げることを目標に掲げている。

県は目標達成のため、国内市場に対しては既存の顧客の再訪を進め、きめ細かい市場調査で新しい客層の確保を目指している。海外市場では東アジアの需要を確保しながら、東南アジアと欧米豪露などへの市場開拓を加速させる考えだ。長期滞在型のリゾート需要を増加させて滞在日数を延伸し、富裕層を獲得して消費額の増加につなげたい。

基本計画では「世界最高水準の観光リゾート化」を目指している。そのために欠かせないのが、持続可能な観光リゾート地の形成という視点だ。観光客に足を運ばせている沖縄の最大の魅力は、日本の他地域にはない青く澄んだ海などの豊かな自然環境だ。

2017年度の観光統計実態調査では、沖縄旅行の満足度で、他項目より満足度が高い傾向にある「海の美しさ」と「景観」が前年度よりも低下している。自然環境の保護に力を入れる必要がある。

忘れてならないのは、観光によって県民が社会的にも経済的にも最大限の利益を享受することだ。観光客の視点に加え、県民の視点にも立った観光振興を進めたい。

この社説の論旨を(大雑把ですが)纏めると、「観光で沖縄を訪れる人は多くなっているが、客単価(一人一人が使うお金)が減少している。観光産業の構造転換が必要である」になりましょうか。内容はごもっともですが、具体的な施策については言及していないあたりに社説の限界を感じざるを得ません。おそらく執筆者が観光の専門家ではないため、ここまでしか言及できなかったのが正直なところでしょうか。

現在の観光業界が抱える深刻な問題は2つあって、1つが慢性的な労働力の不足、もう1つが観光産業に従事する労働者の賃金がなかなか上がらない件です。求人情報誌ジェイウォームが発刊する『沖縄の平均賃金本 データブック』によると、観光業界の時給の落ち込みが激しく、ネット上でちょっとした話題になっていた記憶があります。

他業種に比べて時給が低いことは、優秀な若手の人材が観光業界に集まりにくいことを意味します。ブログ主が知っている限りでは観光業界の人手不足は今に始まったことではありません。21世紀前後から沖縄県内では労働力が自給できず、他府県の優秀な人材を受け入れて始めて観光産業が成り立っていました。しかも昨今の少子化の影響と外国人観光客の激増で、今度は他府県からも労働力を確保できず、外国人労働者を受け入れてかろうじて業界が維持できている状態です。

このような状況において、「県は第5次県観光振興基本計画で、21年に入域観光客数を1200万人、観光収入を1.1兆円、1人当り消費額を9.3万円、平均滞在日数を4.5日まで引上げることを目標にしている」とありますが、ハッキリいってブログ主には自殺行為にしか思えません。一番の問題は、これだけの壮大な計画を達成するために「どこから労働力を確保するのか」を全く考慮していないことです。

第5次県観光振興基本計画を達成するには、ハッキリ申し上げると外国人労働者を大量に受け入れる必要があります。国内の労働力市場だけではもはや対応できないことと、バイリンガルな人材を数多く確保するためにはどうしても外国の優秀な人材に頼らないといけないのです。そのうちネパール人や中国人が三線を弾きながら「安里屋ゆんた」を歌い、うちなーのこころをアピールする時代が間違いなくやってきます。沖縄サミット(2001年)前後からは既に八重山諸島の水牛車観光で関西弁をしゃべりながら「安里屋ゆんた」を歌うサービスは普通にありました。今後は外国人がうちなーのコンテンツを世界に発信する役割を担うことになるだけです。

そうなったときに日本および世界市場に対して、「わが沖縄は観光立県である」と堂々と主張することができるのか。観光立県(笑)の時代が到来する可能性を考慮しない県の観光政策には失笑を禁じえません。上記社説では「県民視点に立った振興を」とありますが、労働力すら自給できない産業をこれ以上どうやって振興しろというのか、むしろ観光客の増加に歯止めをかける施策のほうが必要なのではと思わざるを得ないブログ主であります。(終わり)


【参照】平成30年(2018年)3月1日 沖縄タイムス+プラス 

沖縄の平均自給30円増えて893円 – 平均月給は1652円減の16万6886円