自衛隊は日本軍の後継者なのか、違うのか

今回はひさびさに沖縄タイムスのコラムに対する真面目なツッコミ記事を掲載します。令和元年6月24日付沖縄タイムス1面〈大弦小弦〉を読んだところ、見過ごすことができないミスリードがありましたので、勝手ながらブログ主にて訂正記事を掲載します。

全文を書き写しましたので、読者のみなさま是非ご参照ください。

大弦小弦

互いの顏も見えない闇の中で、那覇市の男性(41)に会った。23日午前4時半、日本軍の牛島満司令官らを祭る糸満市の黎明之塔。自決の時間に合わせて、男性は来た。恒例となった自衛官の集団参拝も見届けたいという

‣ 沖縄戦を戦った日本軍には「感謝の気持ちがある」と語る。自衛隊は戦後、違う組織として出発したはずでは、と聞くと「沖縄を守る仕事は同じ。志は受け継いでもいいと思う」と考えを話してくれた

‣ 自衛官が来た。制服の約30人。沖縄の陸自トップを先頭に菊の花を1本ずつささげ、無言で帰っていった。

‣ 夜が明け、魂魄の塔では花瑛塾の中村之菊(みどり)塾長(39)に出会った。「愛国団体」を掲げるが、司令官ではなく名もなき犠牲者を弔うこの塔に手を合わせていた。「自衛隊は日本軍の過ちを謝罪していない」と厳しい。

‣ スパイ視による住民虐殺、持久戦による犠牲拡大。「歴史を認識しないまま自衛隊が沖縄に寄り添うことはできない。侵略と受け取られても仕方がない」と憂う。

‣ 琉球弧で自衛隊基地の新設が進む。宮古島では住民が不安視した弾薬庫の存在を隠していた。与那国島の住民も、知らない間に弾薬庫と同居させられていた。沖縄戦は、軍隊は住民を守らない、という事実を私たちに教えている。改めて問う。自衛隊は日本軍の後継者なのか、違うのか(阿部岳)

今回は最後の一文「改めて問う。自衛隊は日本軍の後継者なのか、違うのか」について言及しますが、この問いの回答は明らかに「違う」になります。コラム執筆者の本音はおそらく「自衛隊は旧日本軍の後継者⇒住民を守らない⇒沖縄から出て行け、離島に配備するな」にあり、その流れに読者を誘導したい意図を感じますが、その前提である「自衛隊は旧日本軍の後継者」が誤っていますので、執筆者の本音は成り立ちません。

ではなぜ自衛隊は旧日本軍の後継者でないのか、その理由は警察予備隊をつくったときに旧軍関係者を採用できなかったからです。試しに下記引用をご参照ください。

ところで、自衛隊の幹部養成の場合はどうであろうか。日本は1950年に警察予備隊をつくる。警察予備隊は、間もなく講和条約ができる直後に保安隊となる。保安隊から、陸、海、空の自衛隊ができる。保安隊のときに、保安隊の最高幹部を養成するための保安研修所をつくった。その前身が今、自衛隊にある防衛研究所である。ところが、保安研修所の第一期、第二期、第三期の学生としては、第二次大戦中、正規の将校、士官として従軍した人間はいっさい入れていない。旧軍関係の学生としては、陸軍なら幹部候補生、海軍なら予備学生出身の予備役の将校、あるいは士官しか採用しない。警察出身者が講師であった。

その問題の根源は、吉田茂にある。彼は、警察予備隊をつくった際、過去に軍隊経験のある正規の将校を追放してしまった。彼らは公職追放の対象にされていたので、国家公務員である警察予備隊、保安隊に入れないのはある意味当然であるが、その後も採用されることはなかった。

引用:長谷川慶太郎著『軍事・防衛は大問題』164~165㌻

上記引用からお分かりのように、自衛隊は旧日本軍から人的資源を引き継ぐことができなかったのです。この点がドイツとの大きな違いであり、同著で長谷川氏が強調するところになります。

決定的なのが現在の自衛隊は旧軍の勲章(金鵄勲章)の佩用が認められていません。この事実は現在の自衛隊が旧軍の伝統を受け継いでいない何よりの証拠になります。しかも現在の自衛隊は、

在職中の自衛官が勲章がもらえない摩訶不思議な方針

で運用されています。この点は旧軍はおろか世界の軍隊の常識からは考えられないシステムです。軍人にとっては一番大切なのは「名誉」ですが、在職中に勲章を佩用できないのはどう考えても気の毒としかいいようがありません。一刻も早く現役自衛官に勲章が佩用できるよう制度変更を行ってほしいと切に願うところであります。

ちょっと話が脱線しましたが、現在の自衛隊が旧軍の後継者でないことがお分かりいただけましたか。「陸、海、空」の能力を装備しているからといって旧軍の後継者という訳ではありません。例えば通話と通信能力があるといっても iOS と Android のスマートフォンは別物です。新聞記者は日々の業務が多忙のため、コラム執筆者は軍隊について詳しく調べる時間がなかったのかも知れませんが、誤解から生ずるミスリードは見過ごすことができないので、比較的ひまをもてあましているブログ主が訂正記事を配信した次第であります。あしからずご了承ください。(終わり)

【追記】「沖縄戦は、軍隊は住民を守らない、という事実を私たちに教えている」のフレーズは、「沖縄戦は、軍隊は住民を守らない場合もある、という事実を私たちに教えている」に訂正したほうがいいですね。