令和03年1月12日付琉球新報8面の “声” のコーナーに大人気漫画 “鬼滅の刃” についての小学生女生徒からの投稿があり、その後の展開がじわじわきましたので、関連する投稿を全部を書き写してきました。
まずブログ主が感心したのは、小学生女生徒の投稿で、鬼滅の刃ブームに対して自分の意見を持っているだけでなく、上手に文章にまとめている点です。令和の小学生はすごいなと実感しつつ、自分の小学生時代とは隔世の感が否めません。試しに全文を紹介しますので、読者のみなさん、是非ご参照ください。
声 1月 「鬼滅の刃」人気の秘密 / 沖縄アミークス5年女生徒
昨年はマンガの「鬼滅の刃」が大人気の1年でした。この本は教育にいいのでしょうか。悪いのでしょうか。
「鬼滅の刃」は兄が鬼になった妹を人間に戻すため鬼退治をする展開です。私の周りでも残酷なシーンがあると、あまり好きではないと言ったり、社会でも問題になったりしていますが、コミックが1億冊以上売れています。作者はもちろん、本屋さん、印刷屋さんなどコロナ禍で仕事が減る中、この本が救っていると言えます。さらにあらゆるコラボ作品が売れています。人に悪い影響を与える作品を商品化するでしょうか。海外でも同じように人気で、勇気をもらった人が多いそうです。県内のある市のリーダーもファンで、この本で子どもや市民と交流が深まったそうです。
コミック同様、主題歌も素晴らしく歌詞も聞く人を感動させます。主題歌を歌っているLiSAさんは小学生の時、沖縄に住んでいたらしく、なじみもあります。またこの本を読んだり映画を見ると親子関係が良くなる、ということです。
私もこの作品を通してお父さんと一緒に話をしたりコスプレもして楽しんでいます。世の中では高額なプレゼントではなくお父さんに手作りの刀を望む子どもも増えているそうです。とてもいいことだと思います。残酷なシーンだけ取り上げるのではなく作品そのものが伝えるメッセージをぜひ感じてください。「はだしのゲン」のように「鬼滅の刃」も長い歴史を超えて残る名作になるはずです。(令和03年1月12日付琉球新報8面)
上記の投稿では、作品中の残酷シーンについて社会的に問題視されていることは認めつつも、作品が世の中に好影響を与える点を列記し、”鬼滅の刃” は時代を超える作品になるであろうと丁寧に説明しています。ブログ主が一番感心したのがブームの結果 “家族の絆” が深まった点に触れていることで、つまり国民的な作品の本質をズバリ言い当てているのです。
ブログ主が小学生5年生のころはこのレベルの文章なんて書けません。いや大人ですらここまで分かりやすく鬼滅の刃の人気の秘密について文章にまとめることができるのか、きわめて疑問に思わざるを得ません。
最近の小学生はすごいなと感心しつつ、同月16日の琉球新報8面に、上記投稿への返信が掲載されていましたので、全文を紹介します。
琉球新報 / 2021年1月16日 / ティータイム
「鬼滅の刃」の別視点
「鬼滅の刃」について投稿を拝聴しました。
経済面や精神面、主題歌、衣装などの特長を挙げて、「鬼滅の刃」をたたえています。自分が感動した作品についてその特長をとらえて文章化する。思考を練る意味でも貴重なことだと思います。
わたしもよく感動した作品をたたえる文章を書きます。加えて、自分が気付かなかった観点から他から知ることもまた思考を深める意味で意義あることだと思います。
わたしが「鬼滅の刃」に危惧を感じることがあります。自分の家族や、友人、民のために命をかけてでも戦うというメッセージについてです。そして、そのメッセージを与える映画が今日本で一番多く見られているということです。
命をかけて戦ってはいけません。戦う前に、戦ってはいけないと訴えることに命をかけてほしいのです。
つまり、このメッセージが戦争につながるのではないかと心配なのです。戦争中の日本がそうだったのです。家族のため、国のため、天皇のためにと、尊い命を惜しみなくかけたのです。敵は誰でしたか。鬼でしたか。
戦争を決して許してはいけません。戦争は善良な人間同士を殺し合うのです。
敵と戦う映画やドラマはいくらもあるでしょう。今、世界情勢もきな臭い時に、このメッセージの映画が日本で一番多く見られていることに危惧を感じるのです。(那覇市、音楽家、71歳)
同じ作品で世代によってこれほど “視点” が違うのかと実感しますが、この真摯な老音楽家は作品が伝える “メッセージ” の危険性を重視し、最終的には戦争につながるのではと危惧しているのです。
ちなみに、この投稿は “ティータイム” という特別枠での掲載なので、琉球新報編集局も同じ見解を持っているかもしれません。
上記2つの投稿は見事なまでに世代間のギャップを浮き彫りにしていますが、ブログ主は鬼滅の刃が伝えるメッセージが戦争につながることはないと確信しています。その理由は小学生女生徒の投稿から伺えますが、彼女は作品をきわめて冷静に受け止めていることが分かります。つまり “エンタメ” として割り切って見ているわけで、作品が伝えるメッセージを真にうけるタイプにはとても見えません。
つまり現代の日本人(とくに若い世代)は、国民的漫画の影響を真に受けて戦争につながるような選択をするほど愚かな存在ではなく、フィクションを純粋に楽しむ心の余裕を持ち合わせているのです。むしろブログ主は “お前らは作品の危険性が分かっていない” と主張し 、誤解を恐れずにハッキリ言うと “俺はお前らとは違うんだ” と宣っていることに気が付かない投稿者の言に危惧を感じるのです。
この真摯な老音楽家にはその気は全くないことは百も承知で断言しますが、
これが “老害” の典型例か
と悲しい事実に気が付いたブログ主であります。