翁長知事の遺志を受け継ぐとは

以前、当ブログにて『琉球・沖縄における国防意識の変遷』と題して旧革新勢力の日米安保および在沖米軍に対する考え方について言及しました。これまで革新共闘会議(かくしんきょうとうかいぎ)は日米安保反対、在沖米軍の即時撤退のテーゼで国政および地方選挙を戦ってきましたが、その根拠の一つに「基地があるから沖縄は戦争に巻き込まれる」との発想があります。

以前は小室直樹著『ソビエト帝国の最期』からの一節を紹介して、彼らの安全保障に関する考え方を説明しました。小室博士の指摘は日本人の戦争に関する観念を上手に説明していますが、我が沖縄の場合はそれだけではありません。「日共の対琉要綱」も大きな役割を果たしていることが分りましたので今回当ブログにて言及します。

米軍の基地が日本にあれば日本は戦争に捲き込まれるといつて日本人を脅かせ

三、米国人は沖縄に居座る意図と見え公然と居座るのだと発表している米国は朝鮮で休戦をわれわれから購つて面目を失し、今では米国人の東洋に踏み止まる決意に対する東洋人の懸念について心を悩している彼等の朝鮮における地位がより不安なものとなつたため彼等が日本と沖縄を保持する事は一層重要となつた。これ等の島における彼等の地位を不安定なものにする事によつて彼等を潰走させる事が出来るのである、米軍の基地が日本にあれば日本は戦争に捲き込まれるといつて日本人を脅かせ。米国の沖縄保持は恒久だと民衆に確信させる事は米人にとつて重要なことである。それで宣伝網を通じて、米軍の進駐は一時的だ短期間のことだとの情念を住民に植つけよ、さすれば彼等の協力者を失うこととなろう。

(昭和29年8月31日琉球新報朝刊『琉球にも日共の”赤い牙”』からの抜粋)

この案件は以前に『日共の対琉要綱 – その1』と題して当ブログで紹介しました。歴史的背景を補足すると1950年代の沖縄において在琉米軍基地は土地問題として扱われ、存在そのものに反対する勢力は沖縄人民党だけでした。しかも当時の人民党は一般大衆からは畏怖の対象とされ、その綱領が必ずしも広範な支持を得てるとは言い難い状況でした。

実際に『日共の対琉要綱』は当時の沖縄2紙(沖縄タイムス、琉球新報)から手厳しく批判されていますが、その主張の一部がいつの間に沖縄社会に浸透し旧革新勢力の伝統的な「安全保障に対する観念」になります。そして昭和43年(1968年)11月10に行われた第一回行政主席選挙において革新共闘会議の推す屋良朝苗候補が当選することで、「安保反対、在沖米軍基地撤去」のテーゼは一般大衆に認知されます。

「基地があるから沖縄は戦争に巻き込まれる」との観念は本来は共産主義者によって日本革命を遂行するために提唱されたのですが、いつの間にか本来の目的は忘れ去られてしまい、観念だけが独り歩きした状態になります。そうなった理由としてブログ主は沖縄教職員会の影響が大きいと考えていますが、この件については後日機会があれば改めて言及します。

オール沖縄会議の安全保障に対する考え方

今月30日に予定されている2018年沖縄県知事選に立候補している玉城デニー候補のツイートからの引用ですが、注目は「これ以上の負担に対しては、胸を張って異議を唱える権利があるはずです」と明言していることです。つまり既存の在沖米軍基地は認めるがこれ以上の負担はご勘弁と主張しているのです。この点こそ”故翁長雄志前前県知事の遺志”であり、オール沖縄会議は日米安保および在沖米軍の存在を認めた上で普天間基地の辺野古移設に反対しています。

はっきり言いますと、翁長前知事の遺志は革新共闘会議のテーゼと真っ向から対立しているのです。そして旧革新勢力はそのことに全く触れずにオール沖縄会議の一員として県知事選挙を戦っています。ひやみかちうまんちゅの会の会長は呉屋守將氏でご存じかねひでグループの会長でもありますが、資本家である彼が共産党など階級政党をこき使って沖縄知事選挙を戦う現状を鑑みると、旧革新共闘会議は歴史的使命を終えたと実感せざるを得ないものがあります。

故翁長雄志前知事の歴史的意義

今年8月8日に死去した翁長雄志氏の政治家としての功績は「イデオロギーからアイデンティティ」とのキャッチフレーズの下に、旧革新勢力に対して日米安保と在沖米軍基地の存在を認めさせたことです。残念なことに彼は革新勢力と手を組んだことであらぬ誤解を受けることになりましたが、実際には沖縄における総保守化の道を切り開いた人物でもあります。

春秋の筆法を持ちうると、彼は”革新共闘会議の流れを組む勢力にトドメを指した政治家”なのです。オール沖縄会議は旧革新勢力にとって最後のよりどころですが、彼らの根本思想である「安保反対、米軍基地撤去」を封印しないと活動できない状況を作り出した翁長氏の手腕は評価されてしかるべきです。以前ブログ主は翁長知事のことを”ハーメルンの笛吹男”と揶揄しましたが、本当にその役割を全うしたのは驚きの一言です。

2018年沖縄県知事選挙は保守系の佐喜眞淳候補、オール沖縄会議推薦の玉城デニー候補のどちらが当選しても安全保障における沖縄の総保守化の流れを止めることは不可能です。唯一の不安は玉城デニー候補が本当に翁長前知事の遺志を受け継ぐのか否かですが、もはや先祖がえりは許されない状況でもあります。沖縄は今後安全保障の面で正しい方向に進むとブログ主は確信して今回の記事を終えます。