「でも売春が禁止されたら性犯罪が増えて、堅気の娘たちが危険にさらされるのではないでしょうか?」
かなり知的な婦人でも、こういう心配に取りつかれている。
キャラウェイ高等弁務官は立法院(第二十三回定例議会)に送ったメッセージの中で、売春禁止法の立法を勧告している。行政府もまたそのための実態調査予算を計上した。売春禁止法の制定が問題になってくれば、かならず反対意見の中に「性犯罪増加の危険」がいわれてくるにちがいない。
弁務官、禁止法の立法勧告 / “性犯罪” はむしろ減る
性犯罪が多くなると、従来よくいわれたのは、低劣なエロ雑誌や、ベッドシーンが強調される映画、下劣な流行歌などの影響であった。だが、それらは文字で書かれたものであり、フィルムに映されたものでしかない。至るところの売春街の存在は、読んだり見たり聞いたりする間接のものではなく、現実に目の前に存在するものとして、青少年の前に展開されている。売春街に行って金さえ払えば、だれでも、いつでも、事実上の”性犯罪”が許容されているのである。もし影響力の点でいえば、これほど強烈な刺激はない。金がない場合に、金銭による”性犯罪”から、暴力による”性犯罪”に変わるのは、ただの一歩でしかない。
売春街あるいは売春宿の存在は、それが社会にかもし出す”みだらな空気”によって広範囲に性犯罪をひき起こしているのである。
フランスのコルマール市は一八八一年売春を禁止した。その年の兵舎の性病患者は千人につき六十九人。一九〇〇年には千人につき十七人。一九二一年以降は性病患者絶無となった。同じくグルノーブルでは一九三〇年に禁止され市民の中の梅毒患者は翌三十一年百十五人(受診二万二千人)。三二年三十六人。三七年二十一人(受診三万二千人)と減った。性犯罪は三〇年七件、三一年六件、三二年十一件(アフリカ兵八百人駐留)三三年十五件(同上)三四年七件、三五年五件とむしろ減少しているのである。
フランスのグルノーブルに、アフリカ兵が駐留していた三二年と三三年における性犯罪の増加、沖縄にとってひとごとではない。だが犯罪の防止は軍にせよ民にせよ警察の責任であって、売春禁止の罪ではない。警察力の強化は必要かもしれないが、警察を気楽にするために、売春と性病の増加を許容する理由はない。
まして売春街が公然と”みだらな空気”を社会にまき散し、金銭による”性犯罪”を許容して、それが広範囲に暴力的性犯罪の空気を助長しているような事態が消滅すれば少なくとも青少年(マリン兵も青少年の範囲にはいる)への悪影響も減少するにちがいない。世界各国における統計がそれを証明している。沖縄も人間の社会である以上、例外ではないはずである。(昭和38年4月25日付琉球新報夕刊2面)
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