働く女子年少者保護育成週間が二十二日からはじまりました。対象は全流の各職場で働く年少者となっていますが、この「保護」からもれている万余の女性がいます。それはいわゆる赤線、青線地帯の女たちです。売春禁止法もなく、彼女たちの更正、福祉施設もないまま、売春が放任されている沖縄の現実……。しかし「必要悪」だからといって見て見ぬふりするわけにもいきません。働く女性の保護育成にちなんで、売春の実態と彼女たちの保護について、読売新聞那覇特派員中沢道明氏の寄稿を紹介しましょう。
長い梅毒の潜伏期間 – 毎日検査しても安全ではない
今まで、沖縄に特派されてきた本土紙の記者は、沖縄に憎まれて取材活動に支障を来しては使命を全うできないという至極当然の理由もあって、必ずしも”本当のこと”を沖縄自体には告げなかった。
私は、大部分の沖縄の男性を信用していないが、沖縄の女性の大部分は清潔で良心的で純粋だと信ずる十分な根拠を持っている。私は、今、私の信頼する沖縄の全女性に告げる。あなた方が起ちあがらねばならない問題、そのひとつに”売春”があるのだ。さらに、キャラウェー高等弁務官に訴える。それはあなたの責任でもあるのだ!あなたは、琉球諸島の住民の安寧と福祉に関し、最高かつ最終的な責任を負っているのではなかったか!
「でも、まあ安物なんぞかって、悪い病気なんかもらってきては困るから…」とあきらめ半分のご婦人方が、こういって苦が笑いされるのをよく見聞する。
実業之日本社で最近刊行した観光ガイドブックの「沖縄」にも「沖縄は売春禁止法なるものはないから、いたるところに青線地帯があるが、検査が実施されている点ではこの吉原が安全だと通人たちはいっている」(一二〇ページ)と書かれている。
安物でなければ安全であろうか?検査が実施されていれば安全であろうか?
梅毒は感染後三週間以上経過しないと、最も鋭敏な血清反応(血液検査)でさえ、これを発見することはできない。だから(現実には不可能だが仮りに)毎日毎日売春婦が血液検査を行なって陰性だったとしても、それは単に検査の日から二十日間前までは梅毒に感染していなかったという意味でしかない。
二十日間の、血液検査でさえ検出不能の期間に、売春婦は何人の客に接するか?
ガイドブックが無責任に勧めた売春宿に、たとえば週末行ってみるがいい。夜の十一時ごろ、女に”泊まり”を交渉した客は、たいていこういって断わられる。
「今夜はまだ数人しか客を取ってないのだから泊まるなら二時ごろ来てちょうだい」
一夜に二十人の客として、二十日間には四百人!平均十人としても二百人!の男たちに、この”安全”な女たちは接しているのである。
だが、安物でなければ安全であろうか?一部の(一部であれば結構だが)料亭の女たちは、酒席に待っている間に機会があれば、一夜に一人の客を取る。二十日間に”売れっ子”ならば二十人、半分として十人の男たちに、この”高価”(一夜で十㌦)な女たちは接しているのである。相手は特定の”なじみ”とはかぎっていない。
”安全”な売春街の女たちといえども、毎日血液検査をしているわけではない。一部料亭やキャバレー・バー、クラブの女たちに至っては、年に一度結核の有無を調べる健康診断があるだけで、自覚症状のないかぎり血液検査など受けはしない。大部分は、第一期の初期硬結(三週間後)も、第二期のバラ疹(三ヵ月後)も気づきはしない。気づくのは第三期のゴム腫発生(三年以降)あたりからであり、それまでに千日以上の日が経過し、数百人の男と接しているのである!
沖縄の梅毒患者は、二十歳から四十歳までの年齢層だけにかぎっても、約一万二千五百人おり、二十人に一人の割合である、と厚生局は信頼すべき資料にもとずいて推定している。
沖縄に売春が”公認”されているかぎり、厚生局は問もなく「十人に一人の梅毒患者」を推定せざるを得なくなるだろう。(昭和38年4月24日付琉球新報夕刊2面)
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