性的被害 社会運動でも

「#MeToo」運動をきっかけに、ジェンダー平等や性暴力撲滅への機運が高まる中、社会運動でのセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)をなくそうという声が高まっている。2018年、県内の社会運動を行なう団体のメンバーから性的嫌がらせをの被害にあった女性は「ほとんどの被害者が泣き寝入りを強いられている」と話し、運動の場で被害が表面化しづらい構造的な問題を指摘する。

女性は団体に問題提起し、謝罪文と再発防止ガイドライン策定につながった。女性の人権の問題から社会運動に携わる高里鈴代氏は「見過ごせない問題だ。被害者がちゃんと言える環境をつくっていかないといけない」と、時代に沿った防止策が団体に求められているとの認識を示した。

制止をどう喝、寝室侵入 / AV女優に似てる」発言

男女雇用機会均等によって、事業主には性別を理由にした差別の禁止や男女の平等が定められ、セクハラ防止の必要な措置を講じることが義務付けられている。しかし、社会運動体に法律は適用されず、殆どの防止策は講じられてこなかった。

社会運動に関わった別の20代女性は、政治家や運動する男性らに

「AV(アダルトビデオ)女優に似ている」

と言われたり性行為について延々と自慢されたりしたという。「大衆に受ける発言なら許されるような風潮がある。社会問題の解決を主張しても、平気で女性をおとしめる発言をすることはとても残念だ」と語った。

2018年1月に被害に遭った女性は県内の運動団体の宿泊施設広間で、団体メンバー(当時)の男性から性的嫌がらせを受けた。女性は強い口調で何度も制止したが、男性は女性をどう喝し、広間にいた別のメンバーも止めなかったという。女性は寝室に逃げたが男性が寝室に入ってきたため叫び、最終的に宿泊者が止めたという。

「ほとんど泣き寝入り」

女性は専門家と通じ、団体に謝罪と対応を何度も強く求めた。団体は同年3月別の専門家として高里氏を招き、セクハラに関する勉強会を開催。同年4月、女性の求めに応じる形で謝罪文を完成させ、宿泊所に掲示した。謝罪文では「事件を起こした重大さを真摯に受け止め、言動に自覚をもって二度とこのようなことのないよう取り組んでいく」とした。同年7月にはセクハラ防止ガイドラインを策定し、相談窓口も設置した。

女性に性的嫌がらせをしたメンバー(当時)は本紙の取材に「酔っ払っていたが、そういうこともあったかもしれない。はっきりと覚えていない」と話した。同メンバーは団体を脱退した。現場に居合わせた別のメンバーの男性は「一升瓶の酒を飲んでいて記憶がない」と話した。勉強会をしたことで「過去にひどい言葉やいやらしい言葉を言ったかもしれない。注意しないといけなかったと勉強になった。認識が甘かった」とした。

団体は謝罪文で、宿泊所での飲酒自粛も取り組みの一つに挙げたが、その約1カ月後の8月には来訪者とメンバーらの間で飲酒があった。女性は「自粛の誓いが破られた。自分は運動に関われなくなってしまったが、事件を起こした人たちは何もなかったかのように過ごしているのが悔しい。このままだと、また同じような事件が起きても不思議じゃない。分かってないし反省していない」と話した。

団体の弁護士やメンバーは「団体の解散も考えたが深く反省し、問題に向き合い続けている。今はほとんど宿泊所で飲酒はしておらず、セクハラは二度と起きない」と語った。

被害女性、構造的改革訴え

被害に遭った女性は、これまで見過ごされてきた社会運動の場での性差別や性暴力への対応は急務だと訴える。

「ほとんどの被害者は『運動をつぶしたくない』と口をつぐみ、泣き寝入りを強いられている。運動体は『分断につながる』と言って口をつぐませている」

と指摘。あらゆる運動体の意識改革を求めている。

組織が環境作りを

勉強会で講師を務めた「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の高里鈴代共同代表

社会運動の根底には日本社会の女性差別意識が脈々と流れており、そういう意識を持ちながら社会運動をしていることは大いにあり得る。私自身、運動の場で、男性が女性たちに飲食の後片付けを指図したり、夫婦にあいさつをお願いしても夫だけが話をしたりした場合、その場ですぐに指摘してきた。

セクハラの訴えが起きたら問題を共有し、再発防止のための対応をしてきた。セクハラを「こんなの普通」と見過ごすことも加害を容認していることになる。それを指摘しなければ、社会運動をしている人でもセクハラだと気がつかない。

今回の件も勉強会で団体には、謝罪文に記した決意と自覚を今後も持ちつづけることが大事だと話した。

ようやくセクハラと指摘できる社会になってきた。いろんな運動体が、被害に遭った女性がちゃんと言えるような環境をつくっていかないといけない。

甘い認識、意識変革を

女性の人権に詳しい 村上尚子弁護士

男女雇用機会均等法(雇均法)が適用される企業は、セクハラ防止への義務が明確化され、企業のセクハラ意識を変える契機になった。運動体は法律が適用されず対策も整っていないので、被害者が声を出しにくい。

法律が直接適用されない組織や、個々人で女性差別をなくすところにはまだ至っていない。だが、もうそれまでは通用しない。社会の認識も変わってきている。

セクハラは人権侵害であり、許される行為ではない。体を触るなどの行為はわいせつ罪などにもなり得る。

被害者が運動の重要性を配慮していることに甘え、運動体がセクハラを軽く見ることがあってはならない。

そういう運動体は続かないと認識すべきだ。

運動体の意思決定の場にいる人が意識を変えることが大事だ。(令和03年09月28日付琉球新報25面)