差別撤廃させよう

ここ最近ブログ主は昭和43年度(1968年)の新聞記事を精力的にチェックしていますが、その中に気になる記述がありましたので紹介します。同年7月12日付の琉球新報11面で「沖縄他府県人会」の結成に関する内容です。読者のみなさん是非ご参照ください。

昭和43年(1968年)7月12日付、琉球新報(11)

”差別撤廃させよう” – 「沖縄他府県人会」を結成

沖縄在住の他府県出身者による「沖縄他府県人会」の発会式が十一日午後三時から、那覇市安里に西村会館ホールで開かれ初代会長に泉有平氏(奄美出身、元副主席)を選出した。

沖縄には現在約一万二千人(うち奄美出身者六千人)の他府県出身者が居住しているが、これらの人たちは琉球政府章典で「非琉球人」のとり扱いをうけ、選挙権や就職、教育面などで差別をうけているため、「選挙権が与えられるようになったのを機に、諸種の差別を撤廃させよう」という目的で今度の発会式になったもの。

発会式には約四十人が出席、設立準備委員会の島田光則氏が経緯報告をしたあと、会則を承認、泉有平氏を満場一致で初代会長に選出した。また当面の運動方針として①公務員登用の道を開かせる②金融上の差別撤廃 – などを決め、同趣旨の大会宣言、要請文を松岡主席とカーペンター民政官あて送付することにした。

初代会長に選ばれた泉氏は就任あいさつで「在琉他府県出身者は納税の義務を負わせているが、沖縄県民としての諸権利を否定されている。在琉他府県人にもひとしく法の恩恵を与えるべきであり、われわれは今後、組織をもって政府、米民政府にあたっていきたい」と述べた。

上記引用にある”琉球政府章典で「非琉球人」のとり扱いをうけ”とありますが、これは第二章第三条(下記参照)で琉球住民としての扱いを受けなかった在琉県外出身者のことを指します。ちなみに米国民政府布令第147号では、琉球住民とは「琉球列島に本籍を有し、且つ、現在琉球列島に居住している者」と定められていますが、”琉球住民に本籍を有し”とは具体的には昭和28年(1953年)11月16日に公布された「戸籍整備法」によって登録された住民のことを指します。

この問題がややこしいのは、戸籍整備法が公布された昭和28年(1953年)において、奄美から琉球に渡航した奄美出身者の多数が無国籍者であったことと、同年12月25日にて奄美大島が本土復帰したため、奄美出身者は外国人としての扱いとなり琉球住民としての権利を有することができなくなったことです。

つまり琉球政府章典の第二章(下記参照)に定められている琉球住民の権利義務を受けることができず、しかも琉球民政府指令第六号(琉球列島への転籍)によって転籍も制限されたため、これが結果として上記引用のような各種差別に繋がったのです。一種の制度欠陥が招いた悲劇とも言えますが、当時の琉球住民はこの点に関して極めて冷淡な態度を取り続けました。一例をあげると同年施行された琉球政府主席選挙において、非琉球人の取り扱いについては議論の対象にすらならなかったのです。

ブログ主は法律の素人であり、非琉球人案件に関して詳しく言及する資格はありません。ただし当時の琉球住民たちが本土復帰を熱望し、自治権の拡大を訴え続けた中で、一種の差別的扱いを受けた階層に対して冷たい態度を取り続けた歴史的事実は無視すべきではないことだけは確信しています。アメリカ世時代の”闇”は現代の沖縄県民にとっても反面教師であり、それに触れず”沖縄は差別されている”と訴えるのは著しく公平さに欠けると言わざるを得ないのです。(終わり)


【参照】

米国民政府布令第六十八号(1952.02.29)- 琉球政府章典

第二章 – 住民の地位、権利および義務

第三条 琉球住民とは琉球の戸籍にその出生及び使命の記載をされている自然人をいう。ただし、琉球に戸籍を移すためには民政副長官の許可を要し、且つ、日本国以外の外国の国籍を有する者又は無国籍者の者は、法令の規定による場合の外、琉球の戸籍にこれを記載することができない。但し、琉球政府は外国人のため特別の戸籍簿を作成し、運営し且つ維持すべく現行の琉球人戸籍法と概して同程度の範囲および効力を有する適当な法令を制定する権限を有する。なお、外国人戸籍簿の作成又は記載をまつて自動的に琉球人又は琉球列島への法的入域者若しくは琉球列島居留民としての資格が与えられるものではない(改正七)

⑵ 琉球住民の琉球政府に対する義務は、代議政治の一般的責任を負うこと、法及び秩序の維持に協力すること、市民業務に参加すること、総ての選挙において投票すること及び正当に定められ、且つ割当てられた租税を納めることである。

⑶ 禁治産者若しくは準禁治産者又は懲役若しくは禁この刑に処せられた者でその執行を終るまでの者若しくはその執行を受けることがなくなるまでの者又は正当に設置された裁判所によつて執行猶予の言渡を受けた者で当該執行猶予の期間を満了しない者は、公職選挙における選挙権又は公選若しくは任命による公職に就く権利を有しない。

⑷ 琉球政府又は米国政府を暴力で破壊することを主張する者又はこれを主張する党、その他の団体を援助し、又はこれに属する者は、信任による又は報酬を受ける公職に立候補し、又はこれに就くことができない。

⑸ 琉球政府に対する琉球住民の権利は、琉球政府及びその居住する市町村の財産又は営造物を共有すること、公職に志願すること、選挙に参加すること及び正当な理由のある請願をすることである。

第四条 琉球住民は、法の制定、改正又は廃止のために発議権を行使し、且つ、これについて住民投票を行う権利を有するとともに、法の定めるところにより、立法院議員を個々に又は纏めて解職させる手続きをとる権利を有する。

第五条 琉球政府に対する琉球住民の権利は、法に從い、生命、動産、及び不動産の保護を受けることである。

⑵ 総て住民は、個人として尊重され、法の下に平等である。生命、自由及び幸福追求に対する住民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の政務の上で最大の尊重を必要とする。

米国民政府布令第147号 – 琉球住民の渡航管理

第二章 定義

第二条 琉球住民とは、琉球列島に本籍を有し、且つ、現在琉球列島に居住している者をいう。