□死体洗い その時のバンドのメンバーは、沖縄で一番キャラクターが強い奴ばかり集めて組んでいたわけですが、性格が合わずに一人抜け、二人抜けして、入れ替わりが激しかったんです。そのメンバーから抜けた奴の一人でヒコー(嘉手刈武彦さん)がいましたが、彼は陸軍病院の死体の浮かぶプールでベトナムから送られた顔や内臓のない死体を洗っていたんです。
それで、彼は「カッちゃん、金になるよ」といっていましたけど、私は
「お前ベトナムには行かないで、ベトナムから来る死体洗っているの?」
といいましたよ。
腕がないとか、体が半分ない、頭が無いというような死体が、プールにプカプカ浮いているのですが、アルコール漬けされているからそれを水できれいに洗って、おかしくないようにして、棺桶に入れて本国に送るんですけど、一日やったらもう一年間ぐらいは夢に出てきて悩むそうで、これやる人がいないわけです。これはなかなか洗えないんですが、でも彼は、金になるっていうことで一週間は頑張ったらしいんですよ。死体を洗って一日目で、もう自分で洗っている死体が夢に出てきたらしいですよ。これ三日我慢すれば絶対一週間できると思って、それで一週間までやったのに、やっぱり死体でもいろんなのが来るので、もうごちそうさまって逃げ出したわけです。
このプールに漬かっているのは、朝鮮人参みたいな植物じゃなくて、動物ですから、五〇度、六〇度ぐらいのワンフィフティワン(酒名)とかいうものすごく度の強いアルコールみたいなものに漬けているんです。火をつけたらプールが燃えますので、ですからそこでは絶対に、ノースモーキングでした。
この仕事は、何人洗えばいくらっていうようなもので、何体か洗って一日、一〇〇〇ドル近い収入だったのではないでしょうか。これはなかなかやる人がいないですから、まともじゃないですよ。次から次へと死んでどんどん運ばれてくるし、置いておけないから洗わないといけないんだけど、チャー・タマイ・テー(ずっとたまりぱなしなんです)。ですから「ワンネー・ナー・ウッサ(自分はもう十分)」といって皆逃げてしまうんですよ。オジーやオバーも最初は金になるからってやっていても「アイエー(感嘆詞)、デージ(たいへん)、むこうの冷蔵庫にウッサ・キー(たくさん)ある」といって、オジー、オバーもヒンギ・マーイして(逃げ出して)、頭も狂ったりしていましたよ。たいへんですよ、あれは。
それで、洗っても洗っても、次から次への冷蔵庫に死体があるわけで、ようするに需要と供給ができていないわけです。
私も金になるのでこの仕事にのろうかなって思いましたけど、
「カッちゃん、サン・シェ・ーマシ(やらない方がいいよ)。あれは人間のやる仕事じゃないよ。それよりは屠殺場がいいよ。牛や馬、豚のさ」といわれたんです。屠殺場のアルバイト料も高いですし、人間の死体を洗うより屠殺場の方がまだいいというわけですよ。(続く)