大人の対応

平成29(2017)年12月9日の産経ニュースから始まる一連の誤報案件で、ブログ主は前の記事において「実は今回の案件における産経側の対応はトラブルシューティングの見本ともいえる素晴らしいもので……」と記述しました。今回はこの点について少し説明します。

産経側がなぜ理想的な対応ができたのか、最大の理由は平成30年1月30日の琉球新報の反論が実に的確で筋の通った内容だったからです。その趣旨は「不確定な情報を根拠にして、ここまで言われる筋合いはない」ですから、産経側もこの点に絞って対応すればよかったのです。

今回の案件におけるトラブルシューティングで、絶対に行ってはいけない行為が2つあります。それは

  • 間髪いれず高木桂一支局長を更迭すること。
  • 相手にも非があるような論調で反駁すること。

になります。琉球新報の反論はあくまで産経新聞の報道姿勢についてであって、高木支局長の更迭を要求していません。もしも産経が社内調査もろくにせずに高木さんを更迭したら沖縄メディア側はますます不快感を露にすること間違いないでしょう。単なるトカゲの尻尾切りで処理しなかったことがポイントです。

そして今回産経側が「相手にも非があるような論調で反駁しなかったこと」は素直にすごいと思います。たとえば「あなた方の日ごろの報道姿勢が今回の事態を招いた原因の一つである」なんて論調で対応したらそれこそ最悪です。産経新聞にも言いたいことがいっぱいあったでしょうが、今回は自制して琉球新報の反論に真摯に対応した事実は高く評価できます。

今回の案件ではネット上で「クズ新聞」だの「まとめサイト以下」など産経新聞に対しての罵倒が複数浴びせられていますが、この点は仕方ありません。だがしかし新聞社間では大人の対応によって解決済みに持ち込んだことは、本土および沖縄のメディアにとって非常によかったと思います。ブログ主も今回の案件はトラブルシューティングの見本として非常に参考になりました。特に必要以上に刺激してくる相手に対しての琉球新報の反論は特筆ものです。

今後は「琉球新報は今後とも『事実の報道に徹する』という基本姿勢を堅持します」という普久原均編集局長名義のコメント通りの報道姿勢を沖縄メディアが貫くことができるか静かに見守っていくつもりです(終わり)。

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-661446.html


【追記】

2月8日の産経の『おわびと削除』、それを受けての琉球新報、沖縄タイムス側の編集局長名義でのコメント掲載、さらに転載した八重山日報側も編集長名義で謝罪して一件落着の後に、下記のようなコラム(2月12日、大弦小弦)を掲載する沖縄タイムスおよび阿部岳記者に対して苦笑いが止まらない件。

「情報ロンダリング」という言葉がある。不正な資金を「洗浄」するマネーロンダリングと同じように、怪しげな情報も報道機関を通過すると本島らしく見える▸産経新聞の報道が典型だった。米兵が日本人を救助した後にはねられた、というネット上の物語を十分取材しないまま記事化。根拠がないから報じない沖縄2紙に「報道機関を名乗る資格はない」と批判を浴びせた▸「日本人として恥だ」という一節もあった。先鋭化した言葉はネット上で目を引く。案の定、「2紙は反基地だから黙殺した」というデマが拡散した▸会社に抗議の電話があった。私も取材した若者に直接、「なぜ米軍がいいことをした時は報じないんですか」と聞かれた。説明したい。でも、救助を否定すれば一時重体だった米兵や家族を傷つけるのではないか、と二の足を踏んだ▸デマは単なるうそではない。卑劣な攻撃である。多数から少数へ、本土から沖縄へ。デマを浴びせかけ、圧倒すれば誰も少数の訴えに耳を貸さなくなる。表現の自由すら奪える▸デマを考えるのは一瞬。これに対し、事実を積み重ねて反論するには多大な労力と時間がいる。事実の重みは、報道に関わる者なら知っている。産経と沖縄2紙とで、論調が違う分野もある。それでも、デマから社会の基盤を守る責任は共通している。(阿部岳)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/208222