前日(2月4日)行われた沖縄県名護市の市長選挙は即日開票が行われ、自民・公明両党などが推薦した渡具知武豊氏が、現職の稲嶺進候補を破って初当選しました。
名護市長選挙の結果は下記参照。
渡具知武豊(無所属・新)当選、20,389票
稲嶺進(無所属・現) 16,931票
上記の結果を受けて、翌5日に沖縄二紙 (沖縄タイムス・琉球新報) に掲載された論説が面白いほど似ていたので当ブログでアップします。是非ご参照ください。
2018年2月5日 沖縄タイムス 総合3面 視点
敗者は日本の民主主義
名護市長選の陰の勝者は、安倍政権だった。そして陰の敗者は、この国の民主主義だった。
直前の世論調査でも、市民の3分の2が辺野古新基地建設に反対している。それでも稲嶺進氏が落選したのは、工事がじりじりと進んだことが大きい。市民は実際に止められるという希望が持てなかった。
稲嶺氏自身は公約を守り、民意を体現して阻止に動いてきた。日本が民主主義国家であるなら、工事は当然止まるはずだった。
安倍政権は、既成事実を積み重ねて市民の正当な要求を葬った。民主主義の理想から最も遠い「あきらめ」というキーワードを市民の間に拡散させた。
稲嶺氏の2期目が始まった2014年に辺野古の工事に着手。抗議行動を鎮圧するため本土から機動隊を導入し、16年の東村高江では自衛隊まで使った。
力を誇示する一方、辺野古周辺の久志3区に極めて異例の直接補助金を投入した。今回の選挙直前には、渡具知豊氏が当選すれば新基地容認を名言しなくても再編交付金を出すと言い出した。何でもありなら、財源を巡る政策論争は成り立たない。
安倍政権は名護の選挙の構図自体を4年かけて変え、市民からの選択の余地を奪った。大多数の国民がそれを黙認してきた。
渡具知氏も「辺野古の『へ』の字も言わない」という戦略で、暮らしの向上と経済振興を語った。市民は反対しても工事が進むならせめて、と渡具知氏に希望を託した。基地問題からは、いったん降りることにした。それを責める資格が誰にあるだろう。
民意を背負えば、小さな自治体でも強大な権力に対して異議申し立てができる。沖縄に辛うじて息づいていたこの国の民主主義と地方自治は、ついにへし折られた(北部報道部・阿部岳)
2018年2月5日 琉球新報社説 – 8面 – 名護市長に渡具知氏
新基地容認は早計だ
米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題が最大の争点となった名護市長選は、建設を推進する政府が推す無所属新人の渡具知武豊氏が、辺野古阻止を訴える無所属現職の稲嶺進氏を破り初当選した。
渡具知氏の当選のよって市民が新基地建設を容認したと受け止めるのは早計である。渡具知氏は、建設容認を明言せず、問題を解決するために国と対話する姿勢を示しただけだからだ。
安倍晋三首相は2日の衆院予算委員会で、沖縄の基地負担軽減について「移設先となる本土の理解が得られない」との理解を示した。普天間飛行場の県内移設は、軍事上ではなく政治的な理由であることを首相が初めて認めたことになる。政治家として無責任で沖縄に対する差別発言だ。渡具知氏の当選をもって、他府県に移設できない新基地を名護市に押し付けることは許されない。
当選した渡具知氏は辺野古移設について「国と県が係争中なので注視していく」と語っている。新基地容認とするのは牽強付会である。
一例を挙げれば、名護市長選挙を前に、琉球新報社などが実施した電話世論調査から市民の態度は明白だ。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画について、53.0%が反対、13.0%が「どちらかといえば反対」を選択し、66%を占めた。一方で「賛成」は10.5%「どちらかといえば賛成」だ17.8%と3割に満たない。
渡具知氏の当選は、新基地建設の是非を争点化することを避けて経済を全面に出し、前回自主投票だった公明の推薦を得た選挙戦術が奏功したと言える。
渡具知氏は「国と県の裁判を注視していく」と語りつつ「岸本建男元市長が辺野古移設を受け入れた。私はそれを支持し容認した」とも述べている。
当時、岸本市長は受け入れに当たって、住民生活や自然環境への影響を抑えるための①環境影響評価の実施②日米地位協定の改善と15年の使用期限③基地使用協定の提携 – など7条件を提示した。条件が満たされなければ「移設容認を撤回する」と明言した。岸本氏が示した条件は満たされていない。渡具知氏はこの点に留意すべきた。
一方、普天間の県外国外移設を求めている公明党県本部は、自民党が推薦する渡具知氏を推薦した。金城勉代表は渡具知氏と政策協定を結んだ理由について「地位協定の改定と海兵隊の県外、国外移転を求めるということで合意に至った」と述べている。それなら海兵隊が使用する新基地は必要ないではないか。
名護市の課題は新基地建設だけでなく、経済活性化や雇用促進も重要だ。基幹病院整備は早急に取り組む必要がある。福祉、教育、人口減なども切実だ。これらの課題にしっかり取り組んでほしい。
上記の2つの論説の共通点は「名護市民」という言葉が使われておらず、代わりに「市民」という単語が使用されていてそれが必ずしも名護市民を意味するとは限らないことです。あと面白いことに両者ともに一例として事前の世論調査を挙げて、普天間基地の辺野古移設に対して市民は反対している旨を説明していますが、ではなぜ3分の2あまりの民意とやらが選挙結果に反映しなかったのか?当選した渡具知陣営の選挙戦術に対して有効な手段にならなかったのか?そのあたりの説明がうまくできていません。
実は渡具知・稲嶺陣営の公約に大きな差はありません (例外はパンダ誘致か名護大通りに Wi-Fi を敷設するぐらい)。最大の相違点は辺野古移設を争点にするか、しないかです。そして今回の名護市長選挙において、有権者は「争点にしない」ことを選択しました。つまり「いったん決まったことに対してグダグダぬかすな」「オール沖縄陣営の結束のために名護市政を利用するな」が名護市民の本音とみて差支えないでしょう。
両社ともに、選挙結果を素直に受け取れない”複雑な事情”があることを感じざるを得なかったのは気のせいでしょうか(終わり)。