ため息しか出てこない…

ブログ主は先月12日から県民投票に関する記事を精力的にチェックしてきました。今回の案件は投票実施の過程で「県の民意」と「市の民意」が対立するねじれ現象が発生し、最終的に県および新里米吉県議会議長の調停が功を奏して、全県一致で投票事務が実施できる流れになりました。その間の県や不参加の市長たち、および県政与野党らの動きが実に興味深く、試しにブログ主が調子に乗って経緯をまとめてみました。読者のみなさん是非ご参照ください。

県民投票の実施は”民意”

今更の説明ですが、2月24日に実施する「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」(以下「県民投票」)は請求代表者である元山仁史郎氏を中心に「辺野古」県民投票の会のメンバーが地方自治のルールに従って条例制定の請求を行い、平成30年(2018年)10月31日の県議会で正式に可決された経緯があります。

つまり県民投票の実施は議会制民主主義の原則からみると「民意」そのものなのです。だがしかし、県民投票条例 13 条の市町村への委任事務の解釈で、県と不参加の市で解釈が分かれてしまいます。そのあたりの経緯は当ブログにて掲載(県民投票をめぐる一連の騒動に関して思うこと)しましたので今回は説明を省きます。

言わば「県の民意」と「市の民意」が真っ向から対立した形になったのが県民投票を巡る騒動の特徴で、執行者である玉城デニー県知事は窮地に陥ります。県の言い分は「投票実施は義務」、不参加の市長たちの主張は「議会での 2 回の否決は重い」で、どちらも正論です。ところが沖縄 2 紙(沖縄タイムス、琉球新報)は「市民の投票の権利を奪うな」との論調一点張りで、議会制民主主義における”民意のれじれ現象”についての説明を避けてきました。この点は極めて遺憾に思わざるを得ません。

一部自治体が不参加でも予定通り県民投票を実施することを覚悟した玉城デニー知事

1月11日の時点で、玉城デニー知事は「条例改正は行わずに県民投票を実施する」ことを表明します。これは条例制定に尽力した県政与党会派(社民・結・会派おきなわ等)の立場に配慮しての発言で、この時点で県は最悪の事態を想定します。

最悪の事態とは、一部地方自治体が県民投票に参加しないことで執行者である玉城デニー知事のメンツが丸つぶれになることです。それだけは避けたい県側と、だがしかし与党会派の立場にも配慮しないといけないという難しい立場に立たされた玉城知事は最悪は自分が泥をかぶる覚悟を決めます。

ただしこの時点ではまだ「全県実施」をあきらめてはおらず、政治決着のため水面下で交渉が行われていたのは間違いありません。そしてその過程で”三択案”が登場し、与党会派や「辺野古」県民投票の会に条例改正に協力するよう要請がなされます。

「辺野古」県民投票の会が”三択案”を飲んだことで…

1月19日に新里米吉県議会議長が、事態の収拾のために選択肢を増やす方向で事態の収拾に乗り出します。いわゆる”三択案”の登場で、不参加の 5 市長(宜野湾、沖縄、うるま、宮古島、石垣)はこの動きを歓迎します。だがしかし、この妥協案に対して与党会派や「辺野古」県民投票の会は反発します。

理由は「二択前提で条例制定のための署名活動から運動を行い、実際に県民条例制定にこぎつけた。いまさら変更する筋合いない」というもので、これは正論そのものです。ところが21日、「辺野古」県民投票の会が”三択案の容認”を表明したことで、県政与党は梯子を外された形になってしまいます。

しかも玉城デニー知事が22日に「全県実施に向け、条例改正に汗をかく」と述べ、”三択案”の容認を正式に表明したことで与党会派は条例改正に協力せざるをえなくなります。そして23日に与党会派が「全県一致と県議会での全会一致が認められるなら柔軟に対応する」として議長あっせん案を容認、ここで事態は解決に向けて大きく動き出します。

問題は「辺野古」県民投票の会が全県一致での開催を優先するために議長あっせん案を受け入れることを与党会派と水面下で調整したかどうかで、ブログ主が案ずるにおそらく県民投票の会の独断かと思われます。彼等が先に”三択案”の容認を打ち出したことは、ハッキリいって県民投票条例の制定に尽力した与党会派のメンツをつぶしたことに外ならず、しかも煮え湯を飲ます結末になったことで県民投票の会と与党会派の軋轢は決定的になったと見做しても誤りではありません。ただし現時点では与党会派が自制して内輪もめに発展することはありませんでした。

与党会派が自制した理由のひとつが玉城デニー知事が議長あっせん案を支持したこともあります。仮にこの”三択案”の調整が失敗すると、それはつまり「県には調整能力がない」ことを天下に知らしめる結果になり、今後の玉城県政の運営にも支障がでる恐れがあります。それだからこそ内心は「この野郎!」と思いつつも、忍びがたきを忍んで新里議長の調整を受けることになったのです。

24日に与野党が”三択案”に合意することで政治決着の道が開かれたが…

1月24日の県議会における「各派代表者会」で野党である自民党の照屋守之県連会長が議長あっせん案を受けることで合意します(その間の交渉のすったもんだは割愛)。この与野党合意を歓迎したのは不参加を表明した5市長で、実際に宜野湾市の松川市長は翌25日に県民投票への参加の意向を表明します。

これで政治決着へ大きく前進し、29日の臨時議会で改正条例が全会一致で可決すれば一連の混乱は収拾ついた筈でしたが、最後に自民党の県議たちが反対したことで、今度は参加に向けて動いていた 5 市長たちが困惑します。条例改正に反対した県議の気持ちは理解できますが、このタイミングで是々非々で行動するあたりは政治のセンスを疑いたくなるレベルで、その結果

① 与野党調整に尽力した新里米吉議長と照屋守之会長のメンツが丸つぶれになったこと

② 全会一致を条件に議長あっせん案を了承した県内与党にまたまた煮え湯を飲ませたこと

③ 自民党県連に政治家として最も大切な調整の能力が欠けていることをこれ以上ない形で天下に知らしめてしまったこと

となり、何一ついいことがない最悪の事態を引き起こしてしまったのです。そして、

ブログ主はこの時初めて去年9月に行われた沖縄県知事選挙で佐喜眞淳候補が負けた理由を痛感しました。

民主主義のコスト

今回の県民騒動を巡る一連の騒動は、不参加の 5 市長が参加する方向で動いていますので、2月24日に全県一致で開催することで収拾できる流れになりました。当ブログの読者もいろいろ言いたいことはあるでしょうが、今回の県民投票は”民主主義のコスト”と割り切って対応するのが一番いいのではと思われます。

近代デモクラシーの欠点の一つに大衆の判断が必ずしも最善ではないことが挙げられます。10年前の民主党中心の連立政権の誕生が好例ですが、今回のような案件は議会制民主主義を政治制度として採用している以上避けられません。そして1月29日の臨時議会で騒動を起こした自民党沖縄県連の存在も民主主義のコストであり、残念ながら切り捨てるわけにはいきません。

最後に以前当ブログで紹介した我喜屋優氏(興南高校野球部監督)の言葉を紹介します。

米軍普天間飛行場(宜野湾市)辺野古移設問題は、気持ちはいろいろありましょうが、決まったことには従わなければいけません。「世界にはルールがいっぱいある。それに従うことが必要だ」とも指導しています。日本、世界で通用する人に育てるためです。最も嫌なのは「決まっても従わないのが沖縄の人」と言われることです。

引用:産経ニュースの我喜屋優氏のインタビュー記事を読んで思ったこと

上記引用の「米軍普天間飛行場(宜野湾市)辺野古移設問題」のフレーズを「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」に置き換えて、今月24日に実施予定の県民投票が実施されるのを静かに見守るのが最善であるとブログ主は確信して今回の記事を終えます。