いまもむかしもマスコミは……のお話

去る10月27日に、作家の百田尚樹氏が名護市で講演会を開催しました。ブログ主は所用で参加できず(しかも翌日の地元宜野湾市の講演会は台風で中止)、実に残念な思いでいっぱいでした。ただ実際に参加した人によると、講演会には600人近く集まり大盛況だったとのことです。

翌日28日の沖縄タイムスには、以下の記事が掲載されていました。

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/162966

この記事を読んだときに、ブログ主は10年以上前の出来事を思い出しました。それは当時中部観光バスに勤務していたバスガイドさんのエピソードです。彼女は本土出身で中部観光バスに勤務していて、その仕事ぶりが沖縄二紙(タイムスか新報かは忘れました)に掲載されたことがあり、ブログ主もその記事を実際に見たことあります。たしか内容は“平和を伝えるバスガイド云々”でしたが、そのバスガイド曰く、「わたし取材うけてないのね、勝手に写真使われちゃってさ(笑)」。該当記事の事実はバスガイドさんが本土出身であることだけで、その他の内容は創作であったというオチです(沖縄のバスガイドマニュアルには南部戦跡コース用の原稿があり、たしかに平和を伝える一面はあるのですが……)。

上記の百田さんの講演会を伝える記事も、10年以上前のバスガイドの記事も、やっていることはあまり変わらないなと思わざるを得ませんでした。ちなみに『当間重剛回想録』にも似たような話があります。少し長いのですが該当の部分を掲載しますので、是非ご参照ください。

土地問題浮かび上がる(197~198ページ)

私が那覇市長時代ちょうど東京に出張していたとき、朝日新聞に沖縄問題の記事がのっていた。

くわしくいえば1955年1月13日付けの朝刊で、「米軍の沖縄民政を衝く」の見出しで5段抜き、紙面の3分の1を埋め、ニューヨーク国際人権連盟議長ロジャーN.ボールドウィン氏の依頼で、日本人権協会(理事長海野普吉氏)が調査したものを発表したものだった。

この記事は米民政府や、駐日米軍(米極東軍兼国連最高司令官は琉球の民政長官も兼ねていた)をはじめ沖縄にいる現地米軍当局に異常な反響を与えたと思う。記事の内容は土地問題が主で、米軍の土地収用により起こった問題が沖縄住民の人権を侵害していることを指摘したものだった。

朝日報道があった翌日、AP電は、米議会島嶼委員会太平洋諸島調査団長A.J.ミラー議員(共和党)と、W.N.アスナビル議員(民主党)の両氏は、「朝日が報道している自由人権協会の見解は誇張的だ」と語ったことを報道、沖縄でもライカム軍司令部が、「誇張で歪曲されている」との見解を発表している。

この問題はしばらくつづき、比嘉(秀平)主席も、2日後の1月15日には、「一方的なレポートによって報道されたものと思われる点の多いのは遺憾である」との見解を発表、こういう米側からの批判に対して日本人権協会長の海野普吉氏は、オグデン声明をとらえて、「現地調査はしなかったが、かかる非難には十分たたかう用意がある」ことを16日の朝日氏に発表、同じ朝刊で米極東軍司令部は沖縄民政批判に反論声明を発表した。私が東京で朝日の記者につかまったのはボールドウィン記事が出る前日で、朝日の記者も誰か沖縄から“しかるべき”人物が来ていないかと待ちかまえていたところであったのだ。

それで物産斡旋所で1時間半にわたってインタビューをした私は、このインタビューで聞かれるままに沖縄の土地問題、政治問題、軍政問題などを中心に沖縄が終戦から今日までに至った経緯をかなりくわしく説明した。私としては土地問題は沖縄で一番大きな問題の一つであることにはちがいないが、やはり、沖縄の一断面にすぎぬ。沖縄を十分に理解してもらうためには終戦後から現在にいたるまでの経過を一応説明し、その中からさらにこういう未解決の問題がまだ何件残っている、と沖縄の明るい面も、未解決の問題も、両面説明して聞かした。

私の記事はボールドウィン記事と同日に出た。ところが新聞というものはおもしろいもので、明るい面の話はあまり書きたがらないものらしく、「土地問題は全地主が反対、一件も片づいていない – 当間那覇市長語る」数行だけ出ていた。

これには弱った。これでは、ただ朝日に「そうだ、そうだ」とあいづちを打ちに行ってきたみたいで、問題の経過も何もわからん、なぜ今のようになったか、1時間半にわたったインタビューがムダになったような気がしたが、今さらどうの、といったってはじまるわけでもない。

私はその日は朝のうちに民政長官ハル大将にあう用件があったのだが、その前に、息子が世話になったので、お礼かたがた読売新聞の論説委員山崎靖純にあったついでに朝日の記事の一件を話したら、「朝日の編集は赤だからしょうがない」と笑っていた(略)。

60年前の当間氏も、27日の百田さんも、フェアー精神に欠ける記者(およびマスコミ)に取材されて本当に迷惑だったと思います。既存マスコミはいったい何時になったら“(自称)公平・中立”から脱却できるのか、悲観的にならざるを得ないのがいまの正直な気持ちです(終わり)。