本日(11月6日)付沖縄タイムス1面の名物コラム〈大弦小弦〉をチェックした際、「渋滞は紛れもなく基地被害の一つ」との気になるフレーズを目にしました。実際ににそう感じている購読者も多いと思われますので、試しにブログ主がファクトチェックを試みてみました。
参考までに、沖縄の渋滞のピークは復帰後の昭和52年(1977)ごろで、特にひどかったのが国際通りを通過するバス運行であり、渋滞のあまりの惨状に当時の新聞記事をずいぶんとにぎわしていましたが、それはさておき大弦小弦の一部を書き写しましたので、読者のみなさん、是非ご参照ください。
那覇空港で、米軍人の家族らしき女性2人の会話が耳に入った。いかに沖縄の渋滞がひどいか、ここに来るのが大変だったかを言い合っている
あんまり怒っているので、口を挟みたくなった。「そうですね。基地が街の真ん中からどけば、渋滞は減るでしょう」。言葉は飲み込んだが、渋滞は紛れもなく基地被害の一つ(下略)
とありますが、実は我が沖縄の交通渋滞の中心地は、今も昔も那覇なんです。具体的には朝は那覇向けの通勤ラッシュ、夕方は那覇からの帰宅で渋滞というパターンが一般的であり、その逆は意外にもスムーズに運転できるのです。もちろん那覇地区は中北部に比べて米軍基地の割合は極めて低いので、渋滞が紛れもなく基地被害の一つという意見は素直に受け入れることがが出来かねます。
正確には「米国施政権下における交通インフラへの投資不足の結果」なんです。過去に当ブログにて「沖縄の行政が本当に戦ってきた相手」と題した記事を公開し、その中でアメリカ世時代に際限なく増える人口&車両台数に対して交通インフラの整備が追い付かなかった件について言及しました。
なぜ、アメリカ世時代に交通インフラへの投資が不足したかというと、最大の理由は琉球政府が米国民政府によって財政赤字を作ることを強く制限されていたからです。このあたりの事情は松岡政保氏や屋良朝苗氏の回想録に言及されていますが、参考までに松岡氏が主席の時代は日米政府による援助増額という幸運に見舞われ、社会インフラ投資が盛んにおこなわれていた時期にも関わらず、やはり際限なく増える車両台数に対して交通インフラ整備が追い付かなったのです。
※琉球政府が交通を含む社会インフラ整備に全力をかけたのは、実は屋良主席時代に「財政赤字の禁」が解除されて以降なんですが、その結果、琉球政府は1800万ドルの大幅赤字を計上してしまいます。もちろん、復帰にあたって琉球政府の巨額赤字をどうするかが大問題になりましたが、日本政府との折衝の結果、赤字の半分は日本政府が負担することになりました。なお、そのあたりの事情は「屋良朝苗回想録(朝日新聞社)」に記述されています。
ここまで説明すれば、現代の沖縄の交通事情がアメリカ世に起因することと、基地被害が主因ではないことがお分かりいただけたかと思います。ついでに鉄道についても言及しておきますが、アメリカ世に「沖縄県営鉄道(以下軽便鉄道)」を再建しなかった理由は、那覇港と泊港が超絶強化されたのに伴い、東海岸と離島への海路輸送の中心地であった与那原の地位が低下したからなのです。
軽便鉄道は嘉手納から那覇を経由して、与那原につないだことによって、物資輸送の中心としてフル稼働したのですが、戦後は西海岸の2つの港と、それをつなぐ1号線(現在の国道58号線)の重要度が増します。しかも超絶強化したはずの那覇港と泊港が高度経済成長に伴い早々にパンクしてしまったため、泊港は強化、そして安謝に新しい港を作ることを優先した結果、鉄軌道の建設は後回しにされた経緯があります。
※大雑把に説明すると、那覇港は(昭和29年以降)1万トン級の船が数隻停泊できるレベルでの大幅パワーアップ、泊港も離島航路の中心として現在もフル稼働しています(ちなみに、戦前の那覇港は1000トンクラスが数隻停泊できるレベルでした)
つまり、戦前と戦後は輸送の中心がガラっと変わってしまったため、鉄軌道はあえて作る必要なかったというのが事実なんです。しかも〈大弦小弦〉は一部事実誤認があり、
戦前の沖縄も47都道府県で唯一、国鉄がなかった。県が借金して造ったから、簡易な軽便鉄道になった。「国鉄もない沖縄に本来なら国が補助金を出すべきところを、ビタ一文たりとも出そうとしなかった」と、戦前からの新聞人高嶺朝光が「新聞五十年」に書き残している(下略)
とありまして、確かに「新聞五十年」の103~104㌻から引用していますが、実は県が借金して建設したのは初期の那覇‐与那原間(約10㌔)の路線だけであり、後の那覇‐嘉手納間の22.45㌔については建設費用の108万に対し、国庫補助が89万ほど、那覇‐糸満間の15.1㌔については全額国庫補助(63万円)で建設されているのです(沖縄タイムス刊行「沖縄大百科事典」より抜粋)。
いかがでしょうか。ついうっかり調子に乗って〈大弦小弦〉をファクトチェックしてみましたが、該当記事は「米軍基地被害」を前提に文章を作成すると、思わぬ落とし穴にはまってしまう典型例と見做していいかもしれません。最後に、我が沖縄の渋滞事情は確かに深刻なものがあり、それによって労働生産性に影響している可能性は否定できません。だがしかし、
もしかして、沖縄タイムス編集局の労働生産性って渋滞以上に低いのではないか?
と余計なツッコミが脳裏に浮かびつつ、今回の記事を〆ます。
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