残賊の人

早速ですが、孟子の一節をご参照ください。(梁恵王章句下 – 八)

【読み下し文】斉の宣王(せんのう)問いて曰く、湯・桀(けつ)を放ち、武王・紂(ちゅう)を伐てること、諸(これ)有りや。孟子対えて曰く、伝に於てこれ有り。曰く、臣にして其の君を弑(しい)す、可ならんや。曰く、仁を賊(そこな)う者之を賊(ぞく)と謂い、義を賊(そこな)う者之を残(ざん)と謂う、残賊(ざんぞく)の人は、之を一夫(いっぷ)と謂う。一夫紂を誅せるを聞けるも、未だ〔其の〕君を弑せるを聞かざるなり。

【現代語訳】斉の宣王がたずねられた。「殷の湯王は夏の桀王を〔南巣に〕追放し、周の武王は殷の紂王を討伐したときくが、ほんとうにあったことだろうか。」孟子はお答えしていわれた。「いかにも、そう伝えられております。」王がいわれた。「家来の身でありながら、自分の主君をあやめてもよいものだろうか。」孟子はいわれた。「〔もちろん、家来がその主君をあやめてもよろしいなどという道理はございません。〕いったい、仁をそこなうものは賊といい、義をそこなうものは残といいます。残賊の人はもはや主君ではなく、ただ一人の普通の男でしかありません。だから、紂という一人の普通の男が武王に殺されたことは聞いておりますが、家来がその主君をあやめたということはいっこうに聞いてはおりません。」(小林勝人訳注 – 孟子〈上〉岩波書店より抜粋)

この一節は“仁義なき君主は天下のために追放してかまわない”という革命思想(湯武放伐論)の根拠としてよく取上げられます。〔親が子を慈しむように、君子は分け隔てなく民におもいやりを寄せること〕、〔利害のみにとらわれず公共のために尽くすこと〕なき人物が国家のトップに祭り上げられてしまうと、たしかに「苛政は虎より甚だし」の状態になる恐れがあります。実際に我が琉球・沖縄の歴史を振り返ると、残賊の人が権力者として君臨したケースとして、第二尚氏末期とか、第二尚氏末期とか、第二尚氏末期とかがあります。

現代であれば、日本のお隣に(歴史的に儒教の影響を極めて大きく受けた地域ながら)親子三代で“残賊の者”が権力を継承している地域があります。具体的にはどの国かとはいいませんが、今月12日に米国大統領が史上初めて残賊三代目とシンガポールで会談を行うようです。仮に地下の孟子がこのことを知ったら、おそらく激怒すること間違いありません。おそらく「主君でもないのに何故あなたは(残賊の者を)討伐しないのか?」とトランプ大統領に厳しく突っ込みを入れるのではないでしょうか。

ちなみに我が沖縄のメディアはこの対談を歓迎する風潮で、日本の外交について「ふに落ちない」と疑問を呈しております。ブログ主はこの社説のほうが「ふに落ちない」のですが読者の皆さんはいかがでしょうか。少なくとも残賊の者とは話し合いの余地など極めて限られると思いますけどね。(終わり)。


【参照】2018/06/12 琉球新報社説 – 12日に米朝首脳会談 日本は主体的平和外交を

まだ障害は待ち受けているかもしれないが、後ずさりせず乗り越えてほしい。

トランプ米大統領は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と12日にシンガポールで会談すると発表した。一時は中断を表明したが、当初の予定通りに落ち着いた。史上初となる米朝首脳会談は、北朝鮮の非核化だけでなく、朝鮮戦争の終戦宣言を含む米朝関係の歴史的転換の一歩となる。

トランプ氏は交渉の長期化を示唆している。意義が大きいだけに軍事的威嚇や暴言などで頓挫させず、着実に歩みを進めてほしい。

ふに落ちないのは日本政府の姿勢である。歴史的転換に努力を惜しまない要人たちの空気を読めているのだろうか。

12日開催発表を受け、日本政府は米側に拉致、核、ミサイル問題の包括的な解決へ圧力を維持するよう改めて求める方針という。これまでも北朝鮮問題解決には圧力最大化が欠かせないと主張してきた。関係国にさまざまな譲歩の動きがある中、日本はお題目を唱えるかのように姿勢を変えていない。大切な歩みに水を差してはならない。

トランプ氏は「最大限の圧力」との言葉を今後使うことを望まないとしている。韓国国防省は日本の変わらない圧力維持の姿勢に「対話に支障」と懸念を示した。

韓国、米国、中国が外交の舞台で硬軟交えた交渉により、対話路線を築いてきた経緯があるが、この間、日本は一貫して蚊帳の外だ。12日の米朝首脳会談やその後のプロセスに主体性を発揮し、どう積極的に関わっていくかが問われている。

そもそも朝鮮半島は日本の植民地支配の末、南北に分断された。日本にはその責任がある。朝鮮半島の平和化へ主体的かつ積極的に関わらなければならない立場なのだ。

米朝が融和に向えば、在韓米軍の駐留根拠が弱まり撤退する局面も予想される。そう考えると在日米軍をどう位置付け捉え直すか、中長期的展望を持つ必要がある。「日米同盟強化」路線で、いつまでも在日米軍に頼り続ける戦略しか描けないのでは、東アジアの平和構築の動きや時代に乗り遅れてしまわないか。

東アジアの安全保障を巡っては、経済連携の深化や対話・交流によって紛争や戦争の火種を除く外交戦略ビジョン「東アジア共同体構想」なども唱えられてきた。日中関係改善も目指したこのような平和ビジョンを日本は今こそ真剣に議論すべき時である。

一方、在日米軍専用施設の約7割を負担する沖縄も積極姿勢を示す好機ではないか。12日は昨年、ノーベル平和賞候補にノミネートされた大田昌秀元県知事の一周忌に当る。その11日後は「慰霊の日」だ。23日の沖縄全戦没者追悼式には安倍晋三首相も出席する可能性が高い。沖縄側から東アジアの平和構築に寄与することに、さらに踏み込んだ平和宣言があってもいい。