売春の実態探る / 夜の「吉原」(1)

【コザ】「更生保護政策の裏付けのない売防法の実施は無意味だ」。花柳街として広く知られるコザ市、美里村にまたがる特殊婦人の町「吉原」からは何の保護措置も受けないまま夜の女たちが新しい生活を求めて毎日のように1人、2人と姿を消していく。一方管理売春業者は「転業の見通しはないし、女には逃げられるので全くお手あげだ」とボヤク。

夜のとばりが降りると酒を求めてどこからともなく来る男たち。それに甘いさそいをかける「夜の蝶」。だが〔昭和47年〕5月15日の復帰と同時に施行された売防法でがんじがらめにされ、吉原の客足は極端に減った。夜の吉原の実態を探ってみた。

売防法施行で客減る / 更生保護策もなく生活も苦しい

相場は360円読み替え 「兄さん、遊んでいってよ、サービスするわよ」。店先に並ぶ夜の女から今宵の遊び相手を選ぶ男性たち。だがこの光景は本土復帰前にみられた光景にしか過ぎない。いまでは客足はばったりとたえ、午後10時過ぎまで全く客らしい姿はなかった。ゴーストタウンと化した吉原には「夜の蝶」だけが手持ちぶさたのかっこうで店の窓から顔を出し、客をまっていた。午後11時過ぎにある料亭にはいったひとりの客は「あんたがミーグチ小(初めての客)といって歓待された」とテレていたが、午前零時まで客はこの男1人だったという。美容院、食堂、その他雑貨店もひっそり。

洋酒類が一挙に数倍も値上がりしたため、吉原を訪れる客はほとんど安くなったビールを飲むのが多い。ビールの売り値も店によって違い、450円、350円、300円とまちまち。もぐり売春は売防法が実施されない以前と同様に盛んであり、その相場は円を360円に読み替えたほか、アルファを加算してかなりの値上がりになっている。ある特殊婦人は「警察の取り締まりを気にして遊ぶので、もっと値を上げなければやっていけない。だがいまは物価高で客足も少ないため、安くしているのだ」と説明していた。やはり特殊婦人たちは生活の道を閉ざされ、新しい職場もないままもぐり売春へと移っている。もちろん特殊婦人の中にはこれを機会にトルコ・ブロ、サロン、かっぽうへ仕事を変える者や結婚するのもいるが、その数は少ない。多くは管理売春業者の手を離れて個人売春を続けているというのが実態。更生保護施設にはいるのを希望するのはいまのところ1人もおらず更生資金の適用申請を出しているのもいないようだ。

本土に逃げる者も 最近では午前零時以降の警察の取り締まりが強化されたため、街頭で客を呼び寄せるようなことはせず、客の足音を聞くと店の格子戸から手招きをして話し合っている。ある特殊婦人は取り締まり中の私服警官を客と間違えて呼び入れ、さんざんあぶらをしぼられたという。この刑事は「今後同じような売春行為をすれば逮捕する」といい残して帰っていったと失敗談を話していた。

一方管理売春業者側は「前借している女たちはそれを踏み倒し、ちょっと用事をしてくるといってそのまま本土に逃げるし、設備投資した借り入れ金の返済は要求されるなどふんだりけったりだ」と嘆いている。たしかに前借金の大きい特殊婦人は本土・沖縄間の往来が自由になったということで本土に逃げ込んでいるものも多い。1万㌦の前借金を踏み倒されたある業者は「本土のどの地域に逃げたということも知っているが、はたして旅費をかけて催促に行ってもそれだけの金が工面できるかどうか不安だ。それで催促にも行かないでいる」とその事情を説明していた。管理売春業者は転業しようにもそのめどが立たず、成り行きまかせといったかっこう(続く)