命あってのアイデンティティ

本日(8月8日)19時41分付、琉球新報電子版にて、『翁長雄志知事が死去 67歳』のニュースが報じられました。今年5月15日の記者会見で4月21日にすい臓がんの診断および摘出手術を受けた際のやつれた表情から”お察し案件”だったにも関わらず、実際に訃報に接するとショックを受けざるを得ませんでした。謹んでごめい福をお祈りします。

マスコミ報道等によりますと、7月30日には肝臓にガンが転移している疑いで浦添市内の病院に再入院していたようです。そんな状況のなかで8月4日の琉球新報にこのようなコラムが掲載されていました。ブログ主はこのような輩に囲まれていたことが結果として翁長氏の死期を早めたと推測します。7月31日付当ブログに掲載した記事において

我が沖縄における翁長雄志知事の不幸は、ご本人の意思の有無にかかわらず支持者(あるいは支持団体)から”正義の体現者”のように振舞うことを要求されている点に尽きます。

と指摘しましたがコラム執筆者の佐藤優氏がまさにその態度です。今後は翁長氏のような不幸な政治家を輩出してはいけない、今回の訃報に接してブログ主は改めてそう確信せざるを得ません。(終わり)。


平成30年(2018年)8月4日付琉球新報総合(3)佐藤優のウチナー評論〈548〉

沖縄人の矜持 翁長氏は知事選出馬を

7月27日、翁長雄志知事は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設を口実とする同県名護市辺野古における新基地建設に関して、前知事が出した沿岸部の埋め立て承認を撤回する手続きに入る方針を表明した。

記者会見で翁長氏は、国際情勢の変化について〈東アジアにおきましては南北首脳会談、あるいはまた米朝首脳会談の後も、今月上旬には米国務長官が訪朝をし、24日にはトランプ大統領が北朝鮮のミサイル施設解体を歓迎するコメントを発するなど朝鮮半島の非核化と緊張緩和に向けた米朝の努力は続けられています。/このような中、20年以上も前に決定された辺野古新基地建設を見直すこともなく強引に押し進めようとする政府の姿勢は、到底容認できるものではありません。私としては平和を求める大きな流れからも取り残されているのではないかと危惧しています〉と述べ、中央政府を批判した。

朝鮮半島情勢の変化を正確に分析した上で、沖縄にとって最も有利なタイミングで翁長知事は承認撤回に踏み込んだ。翁長知事には高いインテリジェンス力がある。

日本における沖縄に対する構造的差別は国家機関の全てにいきわたっている。裁判所も、日本の陸地面積の0.6%を占めるにすぎない沖縄県に在日米軍基地の70%が所在するという不平等な状況を是正しようとはしないであろう。

それであっても、最後の最後まで、「あの人たち」すなわち中央の政治エリート(政治家と官僚)によって設定されたゲームのルールの中で、構造的差別の脱構築とともに東アジアで平和を求める流れに沖縄を組み込もうと翁長氏は必死になっている。

健康状態を考えた場合、翁長氏は、沖縄のために文字通り命を差し出すつもりだ。筆者も東京に住む1人の沖縄人として、翁長氏のような指導者がいることを誇りに思う。翁長氏の中に筆者は沖縄人の矜持を見る。

沖縄県知事には、他の県知事と比較して、特別の性格がある。民主的選挙によって選ばれた県民の代表であるだけでなく、筆者のように日本に在住する沖縄人、さらに海外に住む沖縄人の代表でもある。沖縄県知事は、沖縄と沖縄人の人格化された象徴なのである。

これから記すことは、翁長知事やその側近、県政与党の人々と相談した上のことではない。1人の沖縄人である筆者の純粋に個人的な思いだ。次期県知事選挙にも、ぜひ翁長氏に出馬してほしい。

確かに翁長氏は健康不安を抱えている。ただし、沖縄の政治家、県職員、有識者らが全力で支えれば、翁長氏は知事の職務を十二分に果たすことができると筆者は確信している。イデオロギーではなく、アイデンティティーという翁長氏の訴えは正しい。この立場に立って、沖縄人が団結しない限り、中央政府による沖縄に対する構造的差別を脱構築することはできない。

率直に言うが、翁長氏を支持する勢力の内部もガタガタだ。中央政府は、知事支持勢力の内紛に期待している。しかし、危機に直面したときにこそ沖縄人は底力を発揮する。文化によって政治を包み込んでいくのだ。現状を冷静に見た場合、政治的な権力闘争と異なる位相で、全ての沖縄人の利益を代表できるのは翁長雄志しかいないと筆者は確信している。(作家・元外務省主任分析官)

【参照】

戦後民主主義につきまといつづけた重大な誤解